1930⇒1939

2010年7月アーカイブ

draculaspanish.jpgのサムネール画像 英語版と同時進行で作られたスペイン語圏向けのアメリカ映画である。

 製作当時は、映画がサイレントからトーキーの時代に入ってまだ間もなく、吹替えの技術が発達していなかった事もあって、同じ脚本とセットを利用して、スペイン語を話す役者を揃えて撮影された。

 早朝からら夕方かけてアメリカ版が撮影され、スペイン版はスペイン版のスタッフがそれを見学した上で、夜間に撮影を行ったという。

 つまり、同時進行でありながら、ルゴシ版に影響を受けている作品でもある。

スペイン語圏のみの公開であったために、アメリカ未公開で、長らく「失われた作品」だった。

その昔、子供向けの怪奇映画の本で「魔人ドラキュラ ベラ・ルゴシ」とキャプションの付いた写真が掲載されていて、どうも顔が違う、と思っていたのだが、今考えてみればそれは、カルロス・ヴィラリアスであった。

 当時はアメリカとスペインでは映画表現の規制が違い、ズペイン版はアメリカに比べて幾分規制が緩かったこともあり、本作はアメリカ版に比べて、女優の衣装も過激であり、吸血シーンがダイレクトに描かれていたり等と、かなり躍動的である。当時では珍しい「移動カメラ」と「ズーム効果」をふんだんに使い、空間の大きさを上手く出している。この点に関しては明らかにアメリカ版を凌駕しているのであるが、逆にアメリカ版のカメラワークが当時の主流だったので、本作の方が革新的だったのかもしれない。

 要所要所で英語版で不採用だったカットが多様されており、明らかにドラキュラがルゴシである箇所がある。

 今の目で見ると、アメリカ版よりもこちらの方が映画としての体裁を保っているが、やはりルゴシの幽幻的でミステリアスな雰囲気には、カルロス・ヴィラリアスは及ばなかったようだ。ヴィラリアスはルゴシに比べて動きが多く、表情も豊かなのだが、逆にそれが人間くささを助長しているようで、怪物に見えないのである。また、対するヘルシング教授も過剰な表現のため、こちらも知能的に見えず、対決のシーンではまるで「コスプレオヤジとサラリーマンの喧嘩」のようである。