1940⇒1949

2014年7月アーカイブ

 ユニバーサルのミイラ男映画は『ミイラ再生』(1932)から始まり、本作は2作目になるが、初作の続編ではなく、セミ・リメイクである。ミイラの名前はイム・ホ・テップからカリスに、古代エジプトの王女の名もアンケスナモンからアナンカに変更された。『ミイラ再生』ではミイラ男は己の意志で行動するが、このリメイクではエジプトの高僧から命を受けた神官の指示に従属する。

 満月の夜ごとに謎の植物ターナの葉3枚を煎じた茶をカリスに飲ませることでその最低限の生命活動は維持され、アナンカの墓を暴くものあらば、毎晩9枚のターナの葉を煎じて飲ませることでカリスは動き出し、墓荒らしを攻撃する。

という約束事に沿って、探検隊とアナンカ姫の墓守との攻防の物語が展開する。このグリフィン・ジェイとマックスウェル・シェーンによる脚本は以後のミイラ男映画の物語のセオリーとなる。

 スティーブ・バニングのキャラクターは世界を股にかけた考古学者で活動的なヒーローである。悪漢アンドヘブがその名を耳にしているなど、なにかと有名なようで、その点はインディ・ジョーンズの先駆とも言えるのではないだろうか?

 ミイラ男に扮するのは1940年代の連続活劇『キャプテン・マーベル』で人気を博したトム・タイラー。タイラーはそれまで低予算の西部劇映画で活躍していた。彼がカリス役に配役されたのは、タイラーの鋭い顔つきと暗い目つきがカーロフに似ており、本編中に『ミイラ再生』のカーロフが登場する回想シーンを挿入する都合があったので、その整合性を考えての判断だったといわれている。

 今では幽霊屋敷をテーマにしたホラー映画は数多いが、本作は「邸に獲りついた幽霊が心霊現象を起こす怪談」をシリアスに描いた先駆的な作品。それまでアメリカ映画では「幽霊」はコメディ映画で扱われることが通例であった。本作はホラー映画としてよりも、その幽霊の正体が何者なのか?というミステリーとしての向きが強い。英国から招かれたルイス・アレンは当初幽霊を登場させるつもりはなかったが、最終的にパラマウントの判断で幽霊の存在を強調するため、特殊効果による幽霊の描写を加えることになった。英国では1940年代は怪奇映画への検閲が厳しい時代で、その描写はカットされた状態で上映されたが、批評家筋からはその暗喩的な演出は歓迎されたという。ともあれ、本作は以後の「幽霊屋敷物」のステータスを確立した。

 映画の中ではロデリックがステラの前で弾くピアノの即興曲は「星影のステラ」である。ヴィクター・ヤングの有名なジャズ・ナンバー「星影のステラ」は本作のために作られたもの。

 主演のレイ・ミランドはこの作品の出演時点ですでに大スターの一人で、彼はこの翌年にビリー・ワイルダー監督作品『失われた週末』(1945)でアカデミー賞主演男優賞を受賞することになる。ビーチ中佐に扮するは 映画創世記以来、ハリウッドの著名な映画人の一人であるドナルド・クリスプ。TVシリーズの『バットマン』でアルフレッドを演じたアラン・ネイピアがスコット医師に扮する。ヒロインのステラはジョン・ウェインの『拳銃無宿』(1947)で日本でも人気を博したゲイル・ラッセル。制作は『失われた週末』(1945)、『サンセット大通り』(1950)などでビリー・ワイルダーとのコンビで知られるチャールズ・ブラケット。スタッフ、キャストともに超一流が顔を揃えた作品である。

※アメリカン ホラーフィルム ベストコレクション DVD BOX Vol.1 発売元:ブロードウェイ 解説書 著:柳下 毅一郎 参照