1956年の最近のブログ記事

考えたことが具現化する、ということは人類の夢の一つであろうが、同時に無意識に産み出してしまう物の弊害がある。それがこの作品の大テーマであろう。

イドの怪物はモーフィアス博士の「潜在意識の中の憎悪」ということだが、娘のアルティラの潜在意識の産物である、という説もある。アルティラもまた創造力育成装置を使って脳を増幅させたと仮定した場合、イドの怪物を作り出すことは可能であるし、物語の整合性についても何ら問題はない。実際、二度目にイドの怪物がC-57-Dを襲った時、眠る博士が起きたことで怪物は消えたが、同時にアルティラも眠っていたところを悪夢を見たために起きたのである。その時見ていた夢は、怪物がC-57-Dを襲っている夢であった。本作で唯一片付かない問題として、アルティラを襲ったトラの問題がある。普段はアルティラに対しておとなしいトラがアルティラを襲った。それが何故なのか?は、アルティラにもわからない。ここは「トラの動物本能で、本当に危険なのはアルティラであることがわかっていたから」という回答で説明が付く。いずれにせよ、真実は闇の中。

本作のプロットはシェイクスピア劇「テンペスト」をモチーフとしている。

絶海の孤島に住む魔法使いプロスペロ―と娘のミランダ、手下の妖精アリエルは、そのまま、モービアス博士、アルティラ、ロビーの3者に被る。若干向きは違うが、アダムス船長はアントーニオ、アロンゾー、ファーディナンドの役割で、キャリバンが「イドの怪物」というところであろうか?

本作は電子音楽を採用した初期の映画作品だという。作曲はアメリカでの電子音楽の先駆者であったルイ&ベベ・バロンが担当した。

全編が電子音で埋め尽くされており、映画音楽と効果音を共有している。特に宇宙船の着陸音は、いまでもその影響が垣間見られる。今では当たり前になっているその効果音は、この映画が最初だったのだ。当時の観客は、今まで聴いたことのない音楽に拍手喝さいを送ったと言われる。
現在、人気キャラクターとなった、ロビー・ザ・ロボットのデビュー作である。本作では召使いロボットとして扱いは地味であるが、「イドの怪物」の正体を最初から知っている唯一のキャラクターとして、重要なポジションには違いない。

ロビーは、アイザック・アシモフのSF小説において語られる『ロボット工学三原則』が採用された初めてのロボットである。
「人間に危害を加えない」
「人間への絶対服従」
「人間に実害の及ばない限りの自己を防衛する義務」

その結果として、「夢のロボット」がここに誕生した。
「コンピュータはコンピュータにならなければならない」という言葉がある。前者は現在進行形の未発達なコンピュータ、後者は小説や漫画世界の、何でもできるコンピュータのことである。
ロビーの登場以前は、フランケンシュタインの怪物、ゴーレム、チャペックの戯曲『R.U.R』をはじめとして、暴走の末に主人を破滅に追い込むケースが多く見られたが、ロビーは、優秀な召使い、心置けない友、頼りになる相談相手であり、また、一分の隙もない『家電』としての機能を全て搭載し、人間の社会生活と完全に融合していた。つまり、「ロボットの理想郷」がそこにはあったと思う。

【参考出展】
ウィキペディア(日本版)
「アメージングムービー2」銀河出版 「人造人間、考える機械、そして電子種族へ」文章:聖咲奇
「ムービー・モンスターズ」プレイガイドジャーナル社 石田一 編+著
「ホラーワールドvol.2」プレイガイドジャーナル社 「イドの怪物の正体はアルティラだ!」文章:石田 一