1960⇒1969

2013年6月アーカイブ

怪奇!呪いの生体実験

 日本未公開作品だが、71年にテレビ初放映された。以来、何度か再放送を重ね、それを子供の頃に観てトラウマになってしまった人が非常に多いという曰くつきの作品。
 ナチの復興を目論む題材としては『ブラジルから来た少年』(1976)が頭に浮かぶが、それに先駆けて10年も前に作られた。特撮は今日の目で見ればチープと言わざるを得ないが、それを補って余りある如何わしく陰惨な雰囲気は特筆すべきところ。冷凍庫にぶら下がるナチ党員、筋肉の電流実験に使われる腕、といったビジュアルイメージのインパクトは強い。何よりも、ただ邸に来ただけの罪の無い女性を殺害し、その生首を痛ましい姿で生かしておくという、幾分行き過ぎた設定は、いかなホラー映画に慣れた者でも背筋寒からしめるものがある。あまりにもひどい話だ。
 しかし、そういったビジュアル面よりも役者の演技面が実に不気味。上手い下手は別として、登場人物がことごとく常軌を逸しており、特に本作のヒーロー的立場にあるロバーツ博士が生首を見てニコニコと喜び、二つ返事で実験に協力してしまうあたりは観客を人間不信に陥れてしまうほどの衝撃である。はっきりいってロバーツの人格演出が生煮えの状態で、少々破綻気味な感がある。しかし、それが功を奏してか、他の一本筋の通ったマッド連中とは違って、群を抜いて狂気の人だ。ここのところの絶望感といったらない。

 ノルベルク博士に扮したダナ・アンドリュースは、『我等の生涯の最良の年』(1946)や、『バルジ大作戦』(1965)、『エアポート'75』(1974)等で知られる、ハリウッド・スターの一人である。

 ノルベルクの助手カールに扮するアラン・ティルバーンは、『白夜の陰獣』(1966)、『スーパーマン』(1979)、『ファイヤーフォックス』(1982)、『リトルショップ・オブ・ホラーズ』(1986)にチョイ役で顔を見せている。


 凶暴になってしまったジーンの父に扮しているのは、無名時代のエ
ドワード・フォックスである。

 監督のハーバード・J・レダーは、本作の翌年に『魔像ゴーレム』(1967)の監督・脚本を務めている。メイク・アップのエリック・カーターもまた、同作でメイクを担当。

 音楽がドン・バンクス、音楽監督はフィリップ・マーテルだ。この二人は、ハマー・ホラーでお馴染み。ドン・バンクスは『フランケンシュタインの怒り』(1964)、『蛇女の脅怖』(1966)、『ミイラ怪人の呪い』(1967)の作曲家。
 
 この作品は出来の良し悪し云々よりも、色んな意味でボーダーラインを越えてしまっている。同時期のハマーやアミカスのような格調高さは無いが、これはこれでちょっと外せない作品といえる。