アウシュビッツ強制収容所の主任医師だったメンゲレ博士の突飛な陰謀と、それを阻止するナチ・ハンターの物語。

そのメンゲレ博士がグレゴリー・ペック。ナチ・ハンターのリーベルマンがローレンス・オリヴィエ。

多分、これはキャスティングが逆の方が良かった。

実在のメンゲレは、実際オリヴィエとそんなに歳が変わらない。

大根といわれるグレゴリー・ペックに繊細で狡猾な悪役など似合うはずはなく、やっぱり大根演技なのであった。対して、小器用な追手のオリヴィエはやり過ぎで、半ばオリヴィエ・ショーと化していた印象である。

オリヴィエは悪役が得意な役者でもある、そもそも「目が座っている人」なので。

多分、オリヴィエ=メンゲレ、リーベルマン=ペック、だったらば、そこそこ面白い映画になっていたと思うのだけれど、残念ながら前出に「マラソンマン」がある。オリヴィエがメンゲレを演じたら、ドクター・ゼルと被っちゃったことだろう。

しかしだ、オリヴィエのナチ・ハンター、リーベルマンは、奇しくも同年発表された「ドラキュラ」でのヴァンパイア・ハンター、ヘルシング教授とほとんど同じ役どころで、そっちと被っちゃった。

そこに来て、マイケル・ガウはいるわ、リンダ・ヘイドンはいるわ、海越えてブルーノ・ガンツはいるわと、一歩間違ったらドラキュラ映画が出来る勢いであり、「これは何かの冗談か?」と誤解してしまう私がいた。

どっちに転んでも、どっちもどっちだと思うが、ドラキュラの方に転んじゃったのもどうかと思う。

この映画、「リーベルマン」という人物の名前に引っ掛けがある(?)。

1947年の「紳士協定」という映画は、グレゴリー・ペックの新聞記者が「自分はユダヤ人」と偽ってユダヤ人差別を取材する物語である。

その中で出会うアインシュタインのパロディともいえる物理学者の名前がリーベルマン教授。
この映画ではリーベルマンはペックにユダヤ人の差別問題を語るキーマンなのであった。