ハマー・ドラキュラ〜第二回〜

戦前のユニヴァーサルがボリス・カーロフとベラ・ルゴシを怪奇スターに育てように、ハマー・プロもまたピーター・カッシングとクリストファー・リーを戦後のホラー・キングに仕立て、彼らの存在によって会社自らも成長していった。そして、ハマーにはテレンス・フィッシャーという職人肌の名監督がいた。ハマー黄金期の作品は殆どが彼の監督作品であり、それらは世界中の映画作家に多大な影響を与えた名作群である。

 さて、1960年代の最初に公開されたドラキュラ作品は、“ヴァン・ヘルシング物語”とでも言うべき『吸血鬼ドラキュラの花嫁』(1960)であった。『吸血鬼ドラキュラ』の後日談という設定だが、残念ながら肝心のドラキュラ伯爵(クリストファー・リー)は登場せず、マインスター男爵(デヴィッド・ピール)という青年吸血鬼と、ピーター・カッシング演じるヘルシング博士が対決する。
 
  1950年代まではコメディーやミステリー、アクション映画なども数多く撮っていたハマーだったが、1960年代も半ばになるとホラー&スリラー系作品の占める割合がぐっと多くなった。しかし、そろそろクラシック・モンスターのリメイクもネタ切れになり、作品の質にも低下が見られるようになったことで、第1期の黄金時代を終えたハマー・プロは次なる挑戦に打って出た。クリストファー・リーをドラキュラ役に呼び戻すことにしたのである。
 
  ドラキュラ・シリーズ第3作に当たる『凶人ドラキュラ』(1966)は、初作から8年の歳月を置いて製作された正式な続編であり、ファンはこれを待っていた。やはりドラキュラ伯爵はクリストファー・リーでなくてはならない。
 
  テレンス・フィッシャーの演出は、やはりゴシック・ホラーを撮らせたら他の追従を許さないものがあり、旅行者がドラキュラ城へ誘い込まれる導入部の緊張感や、初作で太陽光線を浴びて灰になったドラキュラが巨大な石棺の中で生き血を浴びて再生していくシーンなど、印象的な場面が多い名作である。
 
  1968年、ハマー・プロはワーナーのために5本のドラキュラ映画を製作する契約を結び、その最初の作品『帰って来たドラキュラ』(1968)の撮影中に外貨獲得の功績を認められてイギリス王室のエリザベス女王から勲章を与えられている。『帰ってきたドラキュラ』はハマー・プロのドラキュラ・シリーズ第4作であり、クリストファー・リーのドラキュラ第3作に当たる。この作品も順調にヒットを飛ばしたが、主演のクリストファー・リーは物語の中心がドラキュラ自身ではなく、ヒーロー&ヒロインのラブロマンスなど別の要素であることに不満を感じていた。

  続く第5作、ピーター・サスディーが監督した『ドラキュラ血の味』(1969)は、ストーリーの良く練られたロマンチックな作品であったが、リーが懸念していたようにドラキュラ自身は時々チラリと登場するだけで、メインの登場人物のなかでは最も出番が少ない主演俳優となってしまった。

(続く)

文章/石田 一