原題はRCOM.jpg『火星のロビンソン・クルーソー』。そのタイトル通り『ロビンソン・クルーソー』の舞台
を火星に置き換えたもの。火星の描写は当時的で、実際の火星表面はこのような様子ではない訳だが物語の舞台としては充分に迫力がある。

 登場人物は3人だけで、それを家弓家正、小林 修、田中信夫があてている。こう言うと何だが、ともすればダレがちな展開も、家弓家正の声が入ることで雰囲気が出ているように思う。

 『アウターリミッツ』の1エピソードを思わせるup_01.jpg、想像を絶する異星人との遭遇を描いたSFホラー。
この映画で面白いのはリーとカッシングで役柄が逆に思えるキャスティングになっている事。

 リーを吹き替えている家弓家正はクールで謎めいている役柄には申し分なく、カッシングの高塔正康もリーとは対照的な役に合ってと言える。

 『原子人間』『宇宙からの侵略生物』に次ぐ「クォーターマス(原語ではクェータマス)」シリーズの第3作目で
劇場未公開。The_PIT.jpg
舞台はロンドン。地下鉄の工事現場で奇妙な物体が発見され、それが実は大昔に地球に飛来した火星人の宇宙船だったと言う事が判明し...と言うSFホラー。いかにも英国的な雰囲気が、妙にリアルさを醸し出している。

 ジェームズ・ドナルド演じる科学者に家弓家正。こう言う知的な役も上手くはまる。アンドリュー・キア演じるクォーターマス教授(TV版では「クエイター」となっているが、原語では「クェータマス」)に早野寿郎。この人は『奥様は魔女』の、せこい上司役の印象が強いのだが、押しの強い頑固者の役をやっても違和感はない。以下、武藤礼子、大木民夫、富田耕生等々、適材適所で安心してストーリーを楽しめるのが嬉しい。

『蛇女の脅怖』THE REPTILE

 インパクトのある、おぞましい蛇女の顔のアップ写真が興味をかき立てるホラー。
Reptile_001.jpg邪教の呪いによって美女がおぞましい蛇女にされる、その見た目のギャップが
かなり怖いくおぞましさを感じさせるのだが・・・

 吹替えは黄金期の例に漏れず、当時としては普通、でも今見るとかなり豪華、
と言うキャスティング。この人物ならこの声だろう、と言ういかにもな配役で安心して
楽しめる。それでも、主人公などは、当時なら広川太一郎か中田浩二かと思う所に
天田俊明がくる意外性もあったりする。
 脇にしても、博士の大木民夫は適役。排他的な村で主人公の友人となり、何かと
手助けをしてくれる酒場の主人(マイケル・リッパー)に森山周一郎。不気味さで
存在感を出している邪教教団の見張り役に小林清志が配されている。出番が
すくなく、その上台詞も少ないにもかかわらず、贅沢な配役である。お陰で不気味さ
が増している。

 低予算のB級作品ながらムードのある映像と、豪華な吹替えで見応えは
充分である。



 怪奇映画の老舗ユニバーサル製作の、アマゾンの奥地で太古から生息する
半魚人と遭遇する秘境冒険物。creature.jpg

 商売気の強い研究所所長に小林 修。研究熱心でまじめな学者に家弓家正。ヒロインに北浜晴子。

 この配役が意外で、小林 修も押しの強い役は多いのだが、キャスト表だけで見れば、そう言う役は、どちらかと言えば家弓家正だろうと思うようなキャスティング。北浜晴子も『奥様は魔女』のサマンサ役がお馴染みとは言え、いかにもヒロインと言う可憐な声ではないから、これも意外なキャスティングと言える。

 ところで、今ではこの映画の読みは『だいあまぞんの「はんぎょじん」』と言う読みで通っているようだが、吹替えでもはっきりと「はんぎょにん」と言っているのでこちらの方が正しい。

『華氏451』FAHRENHEIT 451

 この映画こそ、吹替えで観るべき、と言いたくなる作品。
F451.jpgと言うのもオープニングが、林立するTVアンテナをバックにして、クレジットが表示される代わりにナレーションで読み上げられる、と言う構成だし、本編中でも一切の文字が使われておらず、数字とマークのみと言う演出になっているから。


 この映画で二役を演じるジュリー・クリスティ、TV版では鈴木弘子ではなく武藤礼子。 どこかはかなさを感じさせるところが、この役には合っている。DVD新録版の渡辺美佐だと、その辺りが感じられずちょと違う気がする。
 
 「本」達のコミュニティのリーダー(?)らしき人物「アンリ」はTV版が大木民夫、DVD新録版が大川 透。俳優の見た目からすれば大川 透でも合っているのだが、役からするとやはり軽い。TV版に比べ、新録版は破綻はないものの、全体的に軽すぎる印象を受けるのが残念。

 翻訳の面で面白いのは、新旧、両吹替えともに主人公の職業を「ファイヤーマン」と訳しているのに対し、字幕翻訳では「消防士」と訳している点。クラリスとモンターク(モンターグ)との会話の中で、吹替えだと

「ファイヤーマンは、昔は火を消すのが仕事だったってほんと?」

と言う台詞が、字幕では

「消防士って、昔は火を消すのが仕事だったってほんと?」

となっている。ここはセンスの問われるところ。

 『炎の女』の続編だが、ハガードの書いた続編、『女王の復活』の映画化ではないようだ。
吹替的にもキャストは引き継がれず、ジョン・リチャードソンは前作の
広川太V_O_S.jpg一郎から中田浩二に。
今回の役では前作のような朗らかで純粋な面はなく、重く沈んだ役柄になっているので、まあこのキャストでも良いか、とも思う。
 精神医の声が小林 修だと、話の主人公がクーマに残されたキリクラテスではなく、こいつだなと分かる辺りはご愛敬か。

 それと今回の吹替えだが、前作では「エクラテス」と言っていた名前がオリジナル通り「キリクラテス」になっている。こうして聞いていると「キリクラテス」よりも「エクラテス」の方が耳にすんなりと入ってくるし、続編なのだから、その辺りは気を使って欲しかった。

『炎の女』SHE

 H・R・ハガードの冒険小説「洞窟の女王」のハマーによる映画化作品で
スケール感があり、幻想的で伝奇的な雰囲気がよく出ている。

 吹替えの方は、オリジナルと見比べると、それぞれのキャラクターが、よりコミカルに
なっており、ursla.jpg青野 武などはやりすぎとも言えるほど。どこか『モンティ・パイソン』が
入っているような、そんな感じですかな。でも、まあ、それも愛嬌と言うものか。
 広川リチャードソンは典型的な2枚目だし、久松カッシングも良い感じではまっている。
ロゼンダ・モンテロ(ウステイン)本人の声は、松島みのりよりもハスキーな声で、
なかなか魅力的なのだが、吹替えによって可愛らしさの方が強調されている。見た目には
合っているので、オリジナルとは違う魅力を楽しむ事が出来る。

 ところで、この映画の吹替え版の訳だが、レオが、その生まれ変わりとされている
古代の神官の名前、オリジナルでは「カリクラティス」と言っているが、吹替えでは
「エクラテス」になっている。
『吸血鬼ドラキュラ』の「ホルムウッド」が吹替えでは「ホムウッド」となって
いる事と同様で、その方が日本語の台詞として喋りやすいと言う事もあるのだろうか?

curse_of_werewolf.jpg

TV初放送は1968年(昭和43年)の8月、NET(現テレビ朝日)の日曜洋画劇場で、タイトルは『シニストロ城の吸血狼男』。
 この時の吹替えのメンツを調べてみると、クリフォード・エバンス:西島悌四郎、オリバー・リード:内海賢二、キャサリン・フェラー:小原乃梨子、アンソニー・ドーソン:島 宇志夫、乞食役のリチャード・ワーズワース:田村錦人、と言うものだったようだ。

 後の90分枠で放送されていたバージョンは、フジテレビ再放送版の短縮版だろうか。オリジナルが88分の作品だから2時間枠でならノーカット放送が可能だったはずだがどうだったのだろう。

curse_of_F.jpg'70年の吹替えだから若く聞こえて当然なのだが、それでも「若い千葉耕市」と言うのは珍しいと、つい思ってしまう。カッシングの演技と相まって、より独りよがりで歪んだ狂気を感じさせる所がなかなかのもの。
この辺りが理知的な雰囲気の横森カッシングと大きく違う所だろう。

青年の頃のフランケンシュタイン男爵を当てている小宮山 清も、いつもの軽い声ながら傲慢さを漂わせていて面白い。