1940⇒1949

1943年の最近のブログ記事

 RKOが『キャットピープル』(1942)に続いて制作した、 ヴァル・ニュートンのプロデュースによるホラー映画の第二弾。舞台をブードゥ教の本場である西インド諸島に置き、ブードゥの強大な力とゾンビ伝説を絡めながら、主体となるホランド家の愛憎劇を巧みに描いていく。ホランド一家が抱えていた慢性的な問題は看護師ベッツィがやって来ることによって一気に解消されるわけだが、妻と弟の不貞で人間不信に陥った農園主ポールが、危険を冒してまでゾンビと化したジェシカの治療を試みるベッツィに心打たれ、やがてそれが恋心に変わっていく様が丁寧に描かれており、ただのホラー映画ではなく、傑出したラブ・ロマンスであることも特筆すべきところ。また、恐怖演出も地味ながらも秀逸で、リズミカルなドラミングをバックに展開されるブードゥのダンスや、唯一登場する賦役ゾンビのカラフォーの存在感など、この上なく不気味なエッセンスが散りばめられている。ジョージ・A・ロメロの『Night of the Living Dead』(1968)以前のゾンビ映画の最高峰とも言われる傑作。

夜の悪魔

 怪奇色、というよりは愛憎劇の向きが強い。
 ヒロインのキャサリンは完全に「悪女」であり、ドラキュラに血を吸わせて自分が不死者となり、恋人であるフランクの血を吸ってフランクを不死者にし、「永久の愛」を成就させようとする。当然、役目を果たしたドラキュラは始末する、という念の入った「ドラキュラ暗殺計画」を企てるのである。また、フランクもそれを了承してしまう。
 何と言っていいか・・・吸血鬼を倒す側がグレーな人たちで、敵役の吸血鬼が結果として犠牲者というポジションになる。

 ドラキュラは祖国ハンガリーが荒れ果てたために、若さみなぎるアメリカに身を移し、愛する人と幸せに暮らすために渡米してきたのだが、間男した上に女にだまされ、その女のイロに滅ぼされる、というなんとも情けないメロドラマである。
 普通のドラマならば、フランクとキャサリンは計画的な殺人を犯す「犯罪者」である。マクベス夫妻のようなものであるが、ターゲットが吸血鬼だったので「まあいいか」という空気が流れる。一人まともな保安官が混乱するばかり。

 「吸血鬼」という存在の扱いがひどく、「忌むべき者」という要素がまったく無い。逆にその能力を利用して「幸せになろう」という、吸血鬼映画の暴挙である。