1895⇒1929

メトロポリス(1927)

"METROPOLIS"
ドイツ / ウーファ

[Staff]
制作:エリッヒ・ポマー
監督:フリッツ・ラング
脚本:テア・フォン・ハルボウ
原作:テア・フォン・ハルボウ
撮影:カール・フロイント、ギュンター・リッタウ、ワルター・ルットマン
特撮:エルンスト・クンツマン(特撮)、ワルター・シュルツ・ミッテンドルフ(ロボット・スーツ造型)
音楽:ゴットフリート・フッペルツ
配給:ウーファ

[Cast]
ヨー・フレデルセン・・・アルフレート・アベル
フレーダー・・・グスタフ・フレーリッヒ
発明家 C・A・ロトワング・・・ルドルフ・クライン-ロッゲ
影の男・・・フリッツ・ラスプ
ヨザファート・・・テオドール・ロース
グロート(メインマシン監視長)・・・ハインリッヒ・ゲオルゲ
マリア/ロボット・・・ブリギッテ・ヘルム

[Story]
  魔天楼そびえたつ大都市メトロポリスは、労使両階級の隔絶の色甚だしく、権力を享受する資本階級に対して、労働階級は日々、都市のシステムを維持するために酷使されていた。労働者たちの慰めは、紅一点のマリアが主催する集会であった。
  メトロポリスの支配者、ヨー・フレデルセンの息子、フレーダーは日々放蕩三昧の生活であったが、マリアの存在を知ることで地下のマシン・システムに潜入し、その様を見て愕然とする。これをきっかけにフレーダーは父の右腕だったヨザファートと共にメトロポリスの全貌(真実)を知るため、そして労働者を救うために奔走することになる。
  一方フレデルセンは、発明家ロトワングの屋敷で見たロボットをマリアに仕立て上げ、労働者の救いを絶ち、さらに労働階級の支配を強める計画を立てた。しかしロトワングは、かつてフレデルセンに奪われた恋人「ヘル」への想いとフレデルセンへの憎しみを募らせ、ロボットにメトロポリスの破壊を命ずるのであった。

[Text]

【バージョンについて】

[プレミア版(本国初回公開版)]
 1925年5月22日から1926年10月30日まで行われ、ポスト・プロダクションを経た後、完成したメトロポリスが1927年1月10日にベルリンのウーファパラストで盛大に公開される。
フィルムの長さ 4,189m

[パラマウント版(アメリカ公開版)]
 1927年12月、プレミア版とほぼ同じ内容のネガが、アメリカに輸出された。配給を担当するパラマウント社では幹部試写会が行われたが、結果として、「スター不在で物語の筋を追う事が困難な大作映画をこのままの長さでは上映できない」と判断し、十二巻のフィルムを通常の長さである七巻にまで刈り込むことを決定した。
 物語の辻つまを合わせ、英語字幕を書きなおすために、劇作家チャニング・ポロックが起用された。
 1927年3月7日、ニューヨークにおいて公開された。
フィルムの長さ 約3,100m

[短縮版(ドイツ再上映版)]
 ドイツ国内で上映された「プレミア版」の成績不振を受け、ウーファは公開を一旦打ち切り、フィルムを大幅に短縮し、1927年8月26日に再度公開した。内容はパラマウント版に近い形だったという。
フィルムの長さ 3,241m

[他海外輸出版]
 「メトロポリス」の撮影は、海外輸出を考慮に入れ、効率よくプリントを大量生産するために同時に三台のカメラで撮影された。すなわち、角度の違う等価値のものが3種類存在することになる。プリントは「本国公開用」「アメリカ輸出用」「他外国輸出用」と分けられた。
 公開年度の時点で、すでに大きく3種類のネガが存在していたことになる。以後、「メトロポリス」は複製が重ねられ、フィルムが散逸し、数え切れないほどのバージョンが存在することになる。

[MoMA版]
 1934年3月の時点でドイツ国内で、インタータイトル(字幕)を除いた9巻分(2,589m)のネガがウーファによって保存されていた。1936年、ベルリン・オリンピック開催中にドイツ映画のフィルム収集に訪れていたニューヨーク近代美術館(MoMA)のアイリス・バリーが、ウーファから「メトロポリス」のナイトレイト・プリントをもらいうける。後にこのプリントは、ドイツ語のインタータイトルを忠実に訳した英語のタイトルがつけられた。
 後に再プリントを経ながら保存され、最終的に九巻2,532m(タイトル含む)の長さになり、1986年にミュンヒェン映画博物館に返還されている。

[返還パラマウント版]
 
「パラマウント版」は1936年以降、パラマウントとウーファとのライセンス契約満期によってドイツに返還され、第二次世界大戦後に東ドイツ国立フィルム・アーカイヴに引き継がれた。その時の長さは八巻2,337m。
 尚、パラマウント版返還の際には、その元となったアメリカ輸出用オリジナル・ネガを含む断片(十巻1,952m)も返還されていたのであるが、これは終戦時にソ連軍が戦利品として持ち帰り、戦後長い間ゴスフィルモフォンドで保管されることになる。この断片が東ドイツ国立フィルムアーカイヴに収蔵されるのは1971年になってからで、現在はドイツのブンデス・アルヒーフ・フィルム・アーカイヴに受け継がれている。

[ロンドン 国立映画テレヴィ・アーカイヴ版]
2種類のプリントが存在するが、そのうち1本は「MoMA版」にも「返還パラマウント版」にも存在しないシーンやインタータイトルが残存。
※2002年の修復素材

[オーストラリア公開版]
ジョージ・イーストマン・ハウス所蔵。着色されている。
※2002年の修復素材

[イタリア版]
ミラノのイタリア映画博物館所蔵。イタリア語字幕。
※2002年の修復素材

[アルゼンチン版]
2009年7月にブエノスアイレスで発見された、監督フリッツ・ラング編集による16mmフィルム。
※2010年の修復素材

[ジョルジオ・モロダー版]
 1984年にジョルジオ・モロダーのプロデュースで再編集、再構成され、公開された。
欠損部分に関しては、スチールなどの静止画加工で補った。上映時間90分。


(参考資料)「映像学 68 2002」 日本映像学界

【ロボットについて】
 ファンの間では「ロボット・マリア」、「マリア」と呼称されているが、ストーリー上、発明家ロトワングは、かつて熱愛し、フレダーセンに奪い取られた女性「ヘル」を模して、このロボットを作った。
 この撮影用スーツは造型家 ワルター・シュルツ・ミッテンドルフの手によるもの。材質は木製樹脂の削りだしで、銀色の塗装が施されたという。映像で見る限り金属の叩き出しに見え、当初ミッテンドルフも金属材質を検討したが、材料を金属にしてしまうと、板金工を呼ぶ必要があり、自分の仕事がなくなってしまうのでやめた、という本当か冗談かわからない記録が残っている。尚、撮影用スーツは第二次世界大戦の戦火に消えたという。
 
 ロボットの背面は(今のところ)本編中では映らず、その造形は謎となっている。この件に関しては、どの文献にも記載されていないらしい。一説では「背面は作られていない」という話もある。これは、当時の撮影所の強力な照明と、それによるスタジオ内の異常な温度の上昇を考慮に入れると、スーツの素材を考えても、スーツアクター(ブリギッテ・ヘルム本人)に害が及ぶことは想像に難くなく、それを回避するために「背中が開いている状態」である可能性は高い、という推測である。また、ロボットが椅子に座るシーンもあることから、スーツ臀部にも着席させる措置が取られていた可能性もある。大腿部間接のウイングが背後まで造型されていたならば、アクターは椅子に座ることはできない。