1930⇒1939

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 主演のライオネル・バリモアは俳優の名門バリモア家の長兄で、ジョン・バリモアを弟に、エセル・バリモアを妹に持つ。ドリュー・バリモアの大伯父にあたる。『グランド・ホテル』(1932)、『椿姫』(1936)、『我が家の楽園』(1938)、『素晴らしき哉、人生!』(1946)といった名作映画への出演が続く中で『古城の妖鬼』(1935)や本作のような怪奇テイストの作品にも幾多と顔を出した。

 本作はトッド・ブラウニングが無声映画時代に発表したロン・チャニー主演の『三人』(1925)のセルフ・リメイクである。自身の『London after Midnight』(1927)もまた『古城の妖鬼』(1935)としてセルフ・リメイクしている。

 本作はボリス・カーロフとベラ・ルゴシとの初の共演映画で、1934年度のユニバーサル映画で最高のヒットを記録した作品。監督のエドガー・G・ウルマーは美術監督の出身で、ドイツ映画『最後の人』の美術監督、『巨人ゴーレム』(1920)、『メトロポリス』(1926)、『M』(1931)等のセットデザインを手がけている。

 音楽はハインツ・エリック・ロームヘルドによる。テーマ曲だけでなく、映画全編に挿入曲が流れる最初期の作品でもある。

 エドガー・アラン・ポーの短編小説『黒猫』が下敷きになっているが、ピーター・ルーリックによる脚本には原作の面影はほとんど残されていない。本編で登場する黒猫は、過剰なまでに黒猫を忌み嫌うワルデガストの前に現れて彼を悩ませるだけの存在であった。しかし、黒猫が悪魔の化身であるという迷信や、死に対する恐怖、特定の女性に対する執着といったポーの作品の重要な要素が散見される。

 ポールジックの人物像はイギリスのオカルティスト(神秘主義者)であるアレイスター・クロウリーがモデルとなっている。また、ポールジックの名は『巨人ゴーレム』(1920)の美術監督を務めたドイツ表現主義を代表する建築家ハンス・ペルツィヒ(同スペルのドイツ語発音)からのイタダキである。ペルツィヒは本作がアメリカでの映画監督デビューとなるウルマーの助言役であった。ウルマーは本作の悪役をポールジックと名付けることにより、その礼に報いたのである。