禁断の惑星(1956)

"FORBIDDEN PLANET"
アメリカ / MGM

[Staff]
制作:ニコラス・ネイファック
監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス
脚本:シリル・ヒューム
撮影:ジョージ・J・フォルシー
メイク:ウィリアム・タトル
音楽:ルイス&ベベ・バロン
配給:MGM

[Cast]
エドワード・モービアス博士・・・ウォルター・ピジョン
アルティラ・モービアス・・・アン・フランシス
ジョン・J・アダムス司令官・・・レスリー・ニールセン
”ドク”オストロー中尉・・・ウォーレン・スティーブンス
ジェリー・ファーマン中尉・・・ジャック・ケリー
クイン隊長・・・リチャード・アンダーソン
料理人・・・アール・ハリマン
ボースン・・・ジョージ・ウォーレス
ロビー・ザ・ロボット・・・フランキー・ダロ(スーツアクター)/マーヴィン・ミラー(声)

[Story]
宇宙空間の高速走法の発達によって、人類の太陽系外進出が可能となり、宇宙への移住が始まった23世紀、ジョン・J・アダムスを船長とする宇宙船C-57-Dは、惑星アルテア4へと向かっていた。その20年前に、アルテアに移住したまま連絡を絶っていた「ベララホン号」の移民団の捜索と救助がその目的であった。アルテアには言語学者のモービアス博士とアルテアで生まれた博士の娘・アルティラが、召使いのロボット・ロビーと共に暮らしていた。ベララホン号の移民団は、惑星に潜む「見えない悪魔」によって殺され、モービアスとアルティラ父娘だけが生き残ったのだという。

モービアスがアダムスに、アルテアにはかつて「クレール人」という高度な文明を持つ先住民がおり、とある原因によって絶滅してしまったことを語った。

博士はクレール人の残した設計図を基にロボットのロビーを作ったという。ロビーは、博士とアルティラの命令に絶対服従し、資材のサンプルを分析して無限に生産する能力を備えていた。食料品の生産と料理もロビーの役目であった。また、人命を守るための制御装置も搭載されているため、「殺せ」という命令には拒絶反応を示し、ショートしてしまう。

モービアス博士は、アダムスと隊の科学者であるドクに、クレール人の残した遺跡を披露した。そこには博士が「創造力育成装置」と呼ぶものがあった。
この装置は脳波を利用して知能指数を測量する機能、イメージを具現化する機能、そして、知能指数を増幅させる機能を備えていた。博士はそれを利用して、自らの知能指数を倍にしていたのである。ロビーはその結果として産み出されたロボットであった。

アルテアで過ごす中、C-57-Dは電磁波バリアーを張っていたにもかかわらず、隊員の一人が何者かによって惨殺される事故が起きた。残された足跡から、鋭い爪を持つ巨大な二足歩行の生き物であることがわかったが、誰もその姿を見ていないのだ。そして、防衛体制をとった隊の前にその怪物が現れた。レーザー砲と電磁波バリアによってその姿を現した怪物は、その攻撃にも強靭な耐性を見せたが、突如姿を消した。

怪物の正体を突き止めるべく、アダムスはドクと共に博士の邸宅に向かった。そこでドクは育成装置で自らの知能指数を増幅させたが、そのショックで死んでしまった。死ぬ間際にドクは「イドの怪物」と言葉を残した。

「イド」とは、古代惑星語で「潜在意識の基本原理」を表す言葉であった(※1)。クレール人はその科学文明によって思い通りに物を作る能力を持っていたが、潜在意識の中の闘争心と憎悪から怪物をも産み出し、それによって滅亡してしまったのである。では、なぜ滅亡した後に怪物が現れたのか?イドの怪物は、知能指数を増幅させたモービアス博士の潜在意識の産物だったのである。博士は20年前にベララホン号の帰還が決まった時、それを嫌ってイドの怪物を送りだし、それによってベララホン号の移民団は滅んでしまったのだった。博士の憎しみは、そのまま怪物となって邪魔者を消していた。救出にやってきたC-57-Dの着陸をも嫌い、そのために怪物は発生したのである。

怪物は博士の邸宅に現れた。博士の無意識の憎悪が、アダムスと共に地球に行こうとするアルティラに向いたのである。博士はロビーに怪物を倒すように命令されるが、その途端、ロビーはショートしてしまった。イドの怪物は博士の潜在意識なので、怪物を倒すには博士を殺すしか手が無かったからである。

イドの怪物は鋼鉄の扉を破り、さらにアダムスらが籠城した研究室の扉をも破ろうとしていた。博士の脳の増幅は完全ではなく、理性よりも潜在意識が先行したために、博士自身で怪物を制御出来なかったが、「もう沢山だ!私はお前を否定する!諦める!」と叫ぶと、怪物の気配は消え、博士は倒れた。博士はアダムスに原子炉の爆破装置を起動させ、C-57-Dを娘とロビーと共に逃がした。かくしてアルテアは宇宙の藻屑と化したのである。

※1「イド」とは本来、精神分析用語で「自己保存の欲求に基づく本能的衝動」の意味であるが、DVD(ワーナー・ホーム・ビデオ、2000年発売)の字幕では「古代惑星語で『潜在意識の基本原理』を表す言葉」とされている。これは原語では

"it's an obsolete term...I'm afraid,once used to describe the elementary basis of the subconscious mind."

「これは廃れられた言葉だ。またも、この潜在意識の基本原理を説明することになろうとは…。」 となっている。「古代惑星語」という意訳は、23世紀の時代設定から見た20世紀の地球の言葉なので間違いではないが、適切な意訳としては「地球の古語(死後)」の方がより近いかもしれない。

[Text]

考えたことが具現化する、ということは人類の夢の一つであろうが、同時に無意識に産み出してしまう物の弊害がある。それがこの作品の大テーマであろう。

イドの怪物はモーフィアス博士の「潜在意識の中の憎悪」ということだが、娘のアルティラの潜在意識の産物である、という説もある。アルティラもまた創造力育成装置を使って脳を増幅させたと仮定した場合、イドの怪物を作り出すことは可能であるし、物語の整合性についても何ら問題はない。実際、二度目にイドの怪物がC-57-Dを襲った時、眠る博士が起きたことで怪物は消えたが、同時にアルティラも眠っていたところを悪夢を見たために起きたのである。その時見ていた夢は、怪物がC-57-Dを襲っている夢であった。本作で唯一片付かない問題として、アルティラを襲ったトラの問題がある。普段はアルティラに対しておとなしいトラがアルティラを襲った。それが何故なのか?は、アルティラにもわからない。ここは「トラの動物本能で、本当に危険なのはアルティラであることがわかっていたから」という回答で説明が付く。いずれにせよ、真実は闇の中。

本作のプロットはシェイクスピア劇「テンペスト」をモチーフとしている。

絶海の孤島に住む魔法使いプロスペロ―と娘のミランダ、手下の妖精アリエルは、そのまま、モービアス博士、アルティラ、ロビーの3者に被る。若干向きは違うが、アダムス船長はアントーニオ、アロンゾー、ファーディナンドの役割で、キャリバンが「イドの怪物」というところであろうか?

本作は電子音楽を採用した初期の映画作品だという。作曲はアメリカでの電子音楽の先駆者であったルイ&ベベ・バロンが担当した。

全編が電子音で埋め尽くされており、映画音楽と効果音を共有している。特に宇宙船の着陸音は、いまでもその影響が垣間見られる。今では当たり前になっているその効果音は、この映画が最初だったのだ。当時の観客は、今まで聴いたことのない音楽に拍手喝さいを送ったと言われる。
現在、人気キャラクターとなった、ロビー・ザ・ロボットのデビュー作である。本作では召使いロボットとして扱いは地味であるが、「イドの怪物」の正体を最初から知っている唯一のキャラクターとして、重要なポジションには違いない。

ロビーは、アイザック・アシモフのSF小説において語られる『ロボット工学三原則』が採用された初めてのロボットである。
「人間に危害を加えない」
「人間への絶対服従」
「人間に実害の及ばない限りの自己を防衛する義務」

その結果として、「夢のロボット」がここに誕生した。
「コンピュータはコンピュータにならなければならない」という言葉がある。前者は現在進行形の未発達なコンピュータ、後者は小説や漫画世界の、何でもできるコンピュータのことである。
ロビーの登場以前は、フランケンシュタインの怪物、ゴーレム、チャペックの戯曲『R.U.R』をはじめとして、暴走の末に主人を破滅に追い込むケースが多く見られたが、ロビーは、優秀な召使い、心置けない友、頼りになる相談相手であり、また、一分の隙もない『家電』としての機能を全て搭載し、人間の社会生活と完全に融合していた。つまり、「ロボットの理想郷」がそこにはあったと思う。

【参考出展】
ウィキペディア(日本版)
「アメージングムービー2」銀河出版 「人造人間、考える機械、そして電子種族へ」文章:聖咲奇
「ムービー・モンスターズ」プレイガイドジャーナル社 石田一 編+著
「ホラーワールドvol.2」プレイガイドジャーナル社 「イドの怪物の正体はアルティラだ!」文章:石田 一

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