吸血鬼ドラキュラ(1958)

"DRACULA(USA:HORROR OF DRACULA )"
イギリス / ハマー・フィルム・プロダクション

[Staff]
制作:アンソニー・ハインズ
監督:テレンス・フィッシャー
脚本:ジミー・サングスター
原作:ブラム・ストーカー
撮影:ジャック・アッシャー
メイク:フィル・リーキー
特撮:シドニー・ピアソン
音楽:ジェームス・バーナード
配給:ユニバーサル

[Cast]
ヴァン・ヘルシング博士・・・ピーター・カッシング
ドラキュラ伯爵・・・クリストファー・リー
アーサー・ホルムウッド・・・マイケル・ガウ
ミナ・ホルムウッド・・・メリッサ・ストリブリング
ルーシー・ホルムウッド・・・キャロル・マーシュ
ゲルダ・・・オルガ・ディッキー
ジョナサン・ハーカー・・・ジョン・ヴァン・アイッセン
女吸血鬼・・・ヴァレリー・ゴーント
タニヤ・・・ジャニナ・フェイ
セワード博士・・・チャールズ・ルロイド・ペック

[Story]
吸血鬼ハンターのジョナサン・ハーカーは、吸血鬼ドラキュラ伯爵を倒すためにドラキュラ城へと赴く。城の図書係として伯爵に雇われた形で訪れたが、登城したその夜に吸血鬼の猛攻にあい、あえなくジョナサンはドラキュラの餌食となってしまった。ジョナサンの後を追って、志を共にしたヴァン・ヘルシング博士も城にやってきたが、すでに城はもぬけのから。納骨堂には、牙を覗かせて棺に横たわるジョナサンの変わり果てた姿があった。

ヘルシングはジョナサンに止めを刺した10日後、アーサー・ホルムウッドを訪ねた。アーサーの妹でジョナサンの許嫁のルーシーに面会するためだったが、アーサーはジョナサンの死に疑念を抱き、ルーシーが病床にあることを理由に、ヘルシングを冷たく追い払ってしまった。しかし、日々容体が悪くなっていくルーシーを案じたアーサーの妻ミーナに懇願され、ヘルシングはルーシーとの面会を果たした。その様子からヘルシングは姿をくらましたドラキュラの影を察し、ルーシーに吸血鬼避けの処方を講じるが、その甲斐無くルーシーはドラキュラに血を吸いつくされて死んだ。アーサーはヘルシングを責めたが、ヘルシングは事情を伝えるため、アーサーにジョナサンの日記を託すのであった。

後日、ホルムウッド家の女中ゲルダの娘タニヤが、墓場をうろついていたところを警察に保護された。タニヤが言うには、死んだはずのルーシーに連れ出された、というのだ。驚愕するアーサーが夜更けに納骨堂に安置されているルーシーの棺を調べると、その中は空だった。と、そこに、吸血鬼と化したルーシーが、タニヤを連れて現れた。ルーシーはアーサーの姿を見ると、牙をむき出しにして迫ってきたが、待ち構えていたヘルシングに十字架を突き付けられ、夜明けと共に棺に戻っていった。ヘルシングはアーサーの立ち会いの下、ルーシーの胸に杭を打ち込み、ルーシーは絶叫と共に退治された。

事情を把握したアーサーを味方につけたヘルシングはドラキュラの捜索を続けたが、ドラキュラの魔手はすでにミーナに伸びていた。常に先手を打つドラキュラはついにミーナを手中に収め、城へと逃げ戻る。それを追ったヘルシングとアーサーは、ドラキュラ城の前でミーナを土中に埋めようとしているドラキュラを見た。ヘルシングは城内へと逃げるドラキュラを追い、ジョナサンの惨劇の舞台となった図書室で激闘の末、ドラキュラを倒したのである。

[Text]

戦後の怪奇映画の世界を席巻したハマー・フィルム。その名を不動のものにしたホラー映画の代表作の一本。ドラキュラ映画の決定版である。

「フランケンシュタインの逆襲(1957)」のスタッフ・キャストによるハマー・ホラーの第二弾。

ブラム・ストーカーの原作の流れを崩さずに原作の面白いところだけを抽出し、大胆な簡略と設定の変更が成された。
クリストファー・リーのドラキュラは、戦前のベラ・ルゴシのイメージを一新し、獰猛で凶悪なドラキュラ像を確立。それを向こうに回して勇猛果敢にドラキュラに挑むヘルシング博士もまた、演ずるピーター・カッシングの当たり役となった。

ドラキュラ映画として、初のカラー作品ということもあり、血ぬられた牙を剥き、目を真っ赤にして襲いかかってくるという、「吸血鬼の本性」を露わにしたドラキュラが初めて表現された。また、それまでのドラキュラ映画は現代劇であったが、原作からすでに半世紀を過ぎていたこともあり、初めてコスチュームプレイ(時代劇)の形が取られた。

ホラー映画に限らず、後世の映画に多大なる影響を与えた作品でもあり、畏敬の念を抱く映画人も少なくない。
人気作品であるにもかかわらず、以降のドラキュラ映画はほとんどがルゴシのイメージを継承したもので、本作を参考にしたものは、一部パロディで使われた物を除いては無く、世界の映画界が太刀打ち出来なかったことがうかがえる。

本作では、リーはショックシーンで赤いコンタクトレンズを着用するが、少なからず苦痛を伴い、物をまともに観ることもできない中で激しいアクションを強いられたりと、
これに対して不満を漏らしていたという。

本作で使用されたマントは、2007年にロンドンの衣装屋で30年振りに発見され、オークションにかけられた。その際、写真がネット上に掲載され、「丈が短いのでは?」と疑問の声も出た。どうも、他の映画に流用されたか何かで丈が詰められたようだった。

英国でのタイトルは"DRACULA"であるが、米国でのタイトルは"DRACULA(1931)"との混同を避けるために"HORROR OF DRACULA"とされた。

ミナを演じた、メリッサ・ストリブリングは
「危険な情事(1987)」「死の接吻(1991)」の監督、ジェームス・ディアデンの実母である。



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【日本公開版について】
本作には、日本公開版にのみ含まれているカットが少なくとも2箇所ある。後半でミナの部屋でドラキュラが噛みつくカットと、ラストの太陽光線に晒されたドラキュラの顔が崩れるカットだ。これが含まれている版は、日本の「東京フィルムセンター」に収蔵されている一本のみで、本邦公開後は同センターで不定期に行われる上映イベントのみでしか鑑賞する術がなかったのである。それも1980年代、フィルムセンターの火災によって「焼失された」とされ、日本公開版は「幻のフィルム」となってしまった。

筆者が(長年、この幻のカットに言及してきた石田 一 氏の補佐として)2
008年にフィルムセンターに問い合わせたところ、実はフィルムは、焼失したのではなく、消火のための放水で水を被って失われたことがわかった。それもフィルム9巻のうち、1-5巻が失われ、6?9巻は無事であった。つまり、幻のカットは残っていたのだ。しかし、残ったフィルムも火災の熱で変形し、映写機にかけることが出来ない状態にあった。

この時点でフィルムセンターは、本作のその価値を把握していなかった。その点の詳細を知らせたところ、本作をセンターの研究室内で話題になったという。さらに、その前年にBFII(英国映像協会)から、同じ問い合わせがあったことがわかった。このため、筆者の問い合わせで調査された結果は、BFIIに報告できるものとなった、ということで、フィルムの修復の案件が発生した。しかし、それから3年後、「修復計画は立ち消えになった」という報告のメールが著者にあった。

しかし、同年9月に本家ハマー・フィルムのオフィシャルサイトにて、日本公開版のカットを含めたレストアが行われたことが発表された。
2011年3月9日にサイモン・ラウゾンなる人物がフィルムセンターでその存在を確認し、版元に報告したことでハマー・フィルムがフィルムセンターと直接交渉したことで実現した。

このニュースは世界のファンの間を駆け巡ったが、そのほとんどが「発見された」というニュースであった。しかし、日本のコアなファンはフィルムが存在していることを知っており、火災が起きるまでは上映されていて、この版を鑑賞済みのファンも少なからずいることもあって、どうも海外ファンとの温度差が感じられる。「発見された。」というよりは「あ、燃えてなかったんだ。」という印象が強いようだ。

そして、本作の完全版は2013年3月18日にBlu-ray&DVDがイギリスでの発売が決定した。

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