ミイラの幽霊(1959)

"THE MUMMY"
イギリス / ハマー・フィルム・プロダクション

[Staff]
制作:マイケル・カレラス/アンソニー・ネルソン・キース
監督:テレンス・フィッシャー
脚本:ジミー・サングスター
撮影:ジャック・アッシャー
メイク:ロイ・アシュトン
特撮:ビル・ワーリントン
音楽:フランツ・ライツェンシュタイン
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ

[Cast]
ジョン・バニング・・・ピーター・カッシング
カリス/ミイラ男・・・クリストファー・リー
イザベル/アナンカ姫・・・イヴォンヌ・フルノー
マロニー警部・・・エディ・バイレン
スティーブン・バニング・・・フェリクス・アイルマー
ジョセフ・ウィンプル・・・レイモンド・ハントレー
メヘメット・ベイ・・・ジョージ・パステル
密猟者・・・マイケル・リッパー
巡査・・・ジョージ・ウッドブリッジ
パット・・・ハロルド・ゴドウィン

[Story]
 1895年エジプトでカルナック神の巫女アナンカ姫の墓が考古学者スティーブとジョンのバニング親子と、スティーブの義弟ジョセフ・ウィンプルの陣頭指揮の元に発見された。墓守のメヘメットは古代の呪いの言い伝えがある墓の発掘に反対したが、スティーブたちはそれに取り合わずに墓を開けた。そこで一人調査を進めていたスティーブは何かを見て発狂してしまった。作業はとりあえずジョセフとジョンが引き継いだが、スティーブの身に何が起きたのかはようとして知れなかった。

3年後のある日、精神療養所に収容されていたスティーブはジョンに墓の中で何が起こったかを話し始めた。彼はアナンカ姫の棺の傍にあったカルナックの「生命の巻物」を紐解き、それを読んだところ、「アナンカとは別のミイラが現れた」というのだ。「墓を暴いた罪によって、発掘の関係者が殺される。誰かがミイラを復活させた。」とうわごとのように口にするのであった。

 同じころ、ミイラはメヘメットの手によってイギリスに渡っていた。
ミイラの正体は紀元前2000年にアナンカに使えていた神官カリスであった。アナンカは旅の途中に病にかかり命を落とした。葬儀はカリスによって執り行われたが、アナンカに恋心を抱いていたカリスはその死を受け入れられず、カルナックの巻物を使ってアナンカを復活させようとした。しかし、その現場を警吏に抑えられ冒とくの罪によって舌を抜かれ、死罪よりも重い「死が許されない罪」に課せられ、生きながらアナンカの墓に埋葬されたのである。
 メヘメットはアナンカの墓を冒とくしたバニング一族にカリスのミイラを使って報復しようとしていたのだ。  蘇ったカリスはスティーブとジョゼフを殺し、次にジョンを襲ったが、そこに姿を見せたジョンの妻イザベルの顔を見て悲しげな表情をしてジョンを殺さずにその場から去った。イザベルはアナンカに瓜二つだったのだ。イザベルにアナンカを見たカリスに「自我」が芽生えその葛藤の中でカリスは復讐を遂行していく。

[Text]

【初のユニバーサル・ホラーの完全リメイク】

『フランケンシュタインの逆襲』(1957)、『吸血鬼ドラキュラ』(1958)、『ミイラの幽霊』(1959)の3本は「ユニバーサル・ホラーの再映画化」とされる向きがあるが、『フランケンシュタインの逆襲』はハマーがワーナー・ブラザーズ配給でユニバーサルの協力は得られない状況の中、すでにパブリック・ドメインになっていた原作小説「フランケンシュタイン」を映画化したもの。この作品の成功を受けてハマーは『吸血鬼ドラキュラ』の制作に着手するが、この1958年時点で『ドラキュラ』の原作はパブリック・ドメインになっておらず(著作権が切れるのが原作者の死後50年の1962年)、原作の映画化権(ハミルトン・ディーンの舞台劇台本の権利も含む)を握るユニバーサルの許諾無くしてはドラキュラの映画化は不可能であった。ユニバーサルは「世界配給の権利」を条件にドラキュラの映画化を許可したものの、舞台劇、及び『魔人ドラキュラ』(1931)のプロットの使用には難色を示したという。ハマーは原作小説を簡略化する方法を採用した。そして『吸血鬼ドラキュラ』は世界的な大ヒットを飛ばし、当時倒産の危機にあったユニバーサルの経営危機を救うことになる。この時ハマーはユニバーサルが映画化してきた作品群をカラーでリメイクする企画を立てていた。『透明人間』(1933)、『Mummy's Hand』(1940)、『オペラの怪人』(1943)などがラインナップされていたが、ここでハマーが選択したのは『Mummy's Hand』(1940)であった。ミイラ男はフランケンシュタインやドラキュラのように原作が無く、純粋にユニバーサルが作り出したキャラクターである。ハマーはユニバーサルから登場人物の名前や物語の設定の使用許可を得、ここで初めて「ユニバーサル独自の怪奇映画の完全リメイク」として『ミイラの幽霊』を完成させたのである。

【ミイラのメイク】

 本作のメイク・アップはロイ・アシュトンの手による。この時期のアシュトンはハマーのメイク・アップ部門のアシスタントからチーフに昇格して間もない頃で、本作はチーフとしてクリストファー・リーと組む最初の作品となった。ミイラのメイクはリーのライフマスクを元に制作されており、マスクでありながらリーの面影をクッキリと残す仕上がりとなった。しかし、マスクがリーの顔にフィットしすぎ、その装着は楽ではなかったという。マスクには鼻と口に呼吸用の穴を開けていなかったため、リーはマスクの目の穴から空気を確保したいた呼吸をしていたという。

ミイラ男の容姿は作品中にいくつかのバージョンが確認できる。霊廟で復活する回想シーンの「包帯を巻いただけの状態」と、沼から出現して以降の「泥を被った状態」のもの。さらに細分化すると、沼から出た直後の「濡れた泥を被った状態」と、「付着した泥がそのまま乾燥してしまった状態」だ。話の流れに沿って芸の細かいこだわりを見せている。これも本作の見どころの一つだろう。

【ミイラの苦労】

 ミイラに扮したクリストファー・リーは撮影中に怪我が絶えなかったとのこと。扉に体当たりして肩を脱臼、女優を抱きかかえて歩くシーンで背中を痛め、沼に入って歩くシーンでは、銃で撃たれるシーンでは弾着の激しい爆発によって火傷を負い、ミイラ男が壊す扉になぜか鍵がかかっていてそれを知らずに体当たりして肩を脱臼、沼地のシーンでは女優を肩に担いで歩くシーンで背中を痛め、沼地に沈んでスタンバイした時には酸素補給のために仕込んであったボンベの口が見つからず、水中には水面に泡を出すためのパイプで埋め尽くされており、歩くたびにパイプやタンクに膝をぶつけ、その都度リーの悲鳴と罵声がスタジオに轟いたという。


【ドラキュラvs.ドラキュラ】
 
The_mummy1959_2.png 主人公ジョンの叔父ジョセフ・ウィンプルに扮しているのはイギリス演劇界の重鎮レイモンド・ハントレー。彼は20年代にハミルトン・ディーンの戯曲「ドラキュラ」の本国上演でドラキュラを演じた役者である(その時若干22歳だった)。後にこの芝居がブロードウェイに渡った時にドラキュラを演じたのがベラ・ルゴシだ。ジョゼフ・ウィンプルはミイラ男カリスに首を絞められて殺されるが、このシーンはまさに「新旧ドラキュラ役者の夢の共演」となった。

【カッシングは足に怪我?】 

 ピーター・カッシング扮するジョン・バニングは、蛇に噛まれて足に怪我を負っている設定で足を引きずっているが、本作の前に制作された『バスカヴィル家の犬』(1959)ではカッシング扮するホームズが洞窟の落盤によって足に怪我を負うシーンがあり、この時期はカッシング自身が本当に足を怪我していたのではないかと言われている。しかし、それが真実かどうかは定かでない。

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