1970⇒1979

2023年4月アーカイブ

 前作『シンドバッド黄金の航海』(1973)の大ヒットを受け、同作公開中に本作の制作がスタートした。「魔法で猿に変えられた王子」は『黄金の航海』で検討された設定の一つだったが、エピソードを盛り込みすぎたため同作では見送られ、本作のプロットとして採用された。また、王子の悲壮感をより一層際立たせるために猿から比較的醜いヒヒに変更された。

【登場する怪物】
・ヒヒ 
・グール
・ミナトン
・大蜂
・巨大セイウチ
・トロッグ(独角原人)
・スミロドン(サーベルタイガー)

 登場する怪物たちはこれまでの神話系の怪物から、先史時代の生物が中心となった。シリーズ映画にありがちなマンネリズムを回避するため、「前作と同じような映画にしてはいけない」というコンセプトの下で制作されたという。
 ヒヒとトロッグ(独角原人)のアニメートのクオリティはその緻密性において評価が高いが、ミナトン、大蜂、ゼノビアがカモメに変身する特撮は幾分簡易的に作られたため、ファンからの評価はいまいちのようだ。後にハリーハウゼンは時間的制約があったことを回顧している。事にミナトンはモデル・アニメーションと着ぐるみの併用で撮影された。スーツ・アクターはスターウォーズ・シリーズのチューバッカで有名なピーター・メイヒュー。本作がメイヒューの俳優デビュー作となった。

 賢者メランシアスに扮するはイギリスの人気俳優パトリック・トラウトン(2代目ドクター・フー!)である。ハリーハウゼン映画では『アルゴ探検隊の大冒険』(1963)に続いて2本目の登板。また彼はハマー・ホラーでもおなじみの顔でもある。
 「アルキメデスは親友だった」と自称するメランシアスは、登場人物の中では最も現実主義的な錬金術師(科学者)として描かれる。「古代の数学者は魔法使いに対抗する術を心得ていた」としてアルキメデスが開発した戦争兵器に言及しており、特にローマ艦隊を太陽光と鏡でせん滅させた「アルキメデスの熱光線」を意識しているであろう、ろうそくの火を高圧エネルギーに転嫁する仕掛けをシンドバッド達に披露。その知識と能力を惜しげもなくひけらかし、嬉々とする俗物的側面を持つところが楽しいキャラクターである。