1970⇒1979

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炎のいけにえ

 原題の"MACCHIE SOLARI"は「太陽の黒点」のこと。猛暑によって人々が自殺願望に駆られる冒頭からシモーナが暑さと疲労から死体が動き出す幻覚に悩まされるまでのシークエンスは、実に猟奇・怪奇なテイストで描かれる。ここは、「暑さによって人がストレスを爆発させる状況下で展開される物語」であることを示唆する状況説明としては非常に秀逸で、本題の物語の影が薄くなるほどに印象的な導入である。

 物語は自殺が多発している社会情勢を利用した犯罪劇。殺人犯は巨万の富を手中に収めるため、シモーナのすぐそばで暗躍し、邪魔者を自殺に見せかけて殺していくのである。ホラー映画というと少々肌色が違う作品だが、ショッキングな猟奇描写を多用する演出のためにしばしばホラー映画関連の書籍で紹介される作品だ。サスペンス・ミステリーとはいっても、イタリア映画独特の「味」も手伝ってか、描写、ムード、どれをとってもホラー映画並みに気持ち悪い。何よりも国内でDVDリリースしたブランドが「HORROR TV」であった。

 主人公のシモーナを演じたのは、ダリオ・アルジェント初監督作品『4匹の蠅』(1971)のミムジー・ファーマー、その恋人エドガーに扮したのは『悪魔の墓場』(1974)で主人公を演じたレイ・ラヴロック。

 『悪魔の墓場』といえば、ジョージ・A・ロメロ監督作品"NIGHT OF THE LIVING DEAD"(1968)の模倣作品であるが、"NIGHT OF THE LIVING DEAD"は日本未公開なので、「人を襲い喰う生ける屍」が日本で初めて紹介された作品として知られる。『悪魔の墓場』は人の内臓を露骨に描写した初期の作品だが、同年『悪魔のはらわた』(1974)も公開された。これまた内臓描写のオンパレード(しかも3D)のフランケンシュタイン物。考えてみればこの時期のイタリア映画は「人体破壊描写」が台頭していた時期でもあり、『炎のいけにえ』のモルグのシーンはこの系譜とも言える。実際は本編とは何らかかわりのない幻覚シーンではあるが、前述のホラー映画に比べ、よりグロテスクに、かつ綺麗にまとまっていたところは特筆すべきところ。また、『夢(幻覚)オチ』という点では、ハマーの『吸血ゾンビ』(1966)を知るものとしてはニヤリとしたいところである。
 70年代は様々な恐怖要素を持つ映画が世界各国で乱作され、それらを包括して「恐怖映画」と呼ばれて一大ジャンルを築いた時代である。『炎のいけにえ』はそんな時代に作られた逸品だ。

 
 監督のアルマンド・クリスピーノは新聞に掲載された「太陽の異常活動によって生まれる電磁波によって、夏は自殺者が増える」という仮説に着想を得、ルチノ・パリストラーダと共同で脚本を執筆し、メガホンを取った。クリスピーノは本作の前に"L'ETRUSCO UCCIDE ANCOLA(死者は生きている)"(1972)というサスペンス・ムービーを撮っている。本作と合わせてこの二本はクリスピーノの代表作とされている。また、『炎のいけにえ』に続く監督作は"FRANKENSTEIN ALL' ITALIANA"(1975)で、これはフランケンシュタイン物のコメディだった。

 
【参考文献】
HORROR TV DVD「炎のいけにえ」 プロダクション・ノート(山崎圭司)

デビルズ・ゾーン

 若者たちがバカンスの途中で殺人鬼に追われる、というプロットの作品は多々あるが、本作でちょいと趣向が違うのは、その殺人鬼が「本物の魔法使い」であることだ。映画の性質上「超能力者」というのが正しいのだろうが、その力は完全に我々の知る「超能力」を逸脱しており、ほとんど「魔法」である。


 床に転がっている人形の首がゲタゲタ笑いだす、数多のマネキンがガタガタ動き出し、キャーと叫び、その顔はマリオネットのそれかと思えば、人間と寸分違わない姿で人を騙す。それを操る人形使いを「超能力者」と呼ぶにはあまりにも現象が荒唐無稽である。

 スローソンは凡庸な田舎のオヤジの風体だが、その実態は「超能力者」というよりは、悪魔や魔法使いといった「怪物」であった。

 また、スローソンがそうなってしまったのには、「弟と愛妻の不貞を目撃したことから二人を殺し、それでも妻に未練があったので妻のマネキンを作った」という、「黒猫(1935)」などの古典怪奇映画に時々見られる古風な理由があった。

 物語の下敷きは「悪魔のいけにえ」そのもので、スローソン自身も不気味な仮面を被って暗躍するところなどはレザー・フェイスのパクリであるが、やはりこう、マネキン軍団のインパクトが逸脱しており、(少なくとも筆者には)そんなパクリなどどうでもよくなってくるのだ。 

特撮はおそらく製作当時の目で見ても単純なものだったのだろうが、その稚拙さを逆手に取り、様々な工夫も功を奏して、不気味さを醸しだしている。閉店後の深夜のデパートでマネキンが動き出す、などという都市伝説的なシチュエーションを頭に思い浮かべたことのある人も多いと思うが、それを具現化してしまったのが本作である。

 監督によると、殺人鬼役のチャック・コナーズはそれまで定着していた「正義の味方のイメージ」からの脱却を図っていて、本作のような作品への出演を望んており、ホラー映画のスターになりたがっていた、という。
 仮面を被った怪人があの独特の大きなアゴで丸わかりなのはご愛敬。

 若者の1人を演じているのが、TVシリーズ「チャーリーズ・エンジェル」で人気を博した、売れる前のタニヤ・ロバーツである。