1960⇒1969

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 「スペース・ウエスタン」と銘打った、ハマー・フィルム製作のSF映画である。日本の映画雑誌には、「宇宙船02」のタイトルで新作紹介されたが、劇場公開には至っていないようだ。

 主人公はアメリカ軍人のケンプとロシア人のコミンスキーのコンビである。冷戦真っ只中に作られた作品だ。オープニングクレジットのアニメーションで、この二人がコンビになるいきさつが描かれる。宇宙開発競争の中、アメリカとソ連の宇宙船が月面に到着、各々国旗を立てるが、双方で小競り合いが始まり、そうこうしているうちに世界各国の宇宙船がやってきて、あっという間に月は人類の新天地となる。時期に一攫千金を目論む輩も出てきて、暴力と略奪が起き、成功者も出てきて、二人は過去の存在、すなわち用済みとなって、イギリスの清掃車に回収され、ゴミ箱行き。こりゃたまらん、ということで、二人は「宇宙船02号」で月を逃げ出すのであった。

言ってみれば「スターウォーズ」のハン・ソロとチューバッカを主人公にしたような物語。

69年に「恐竜時代」と共にリリースされた。本作の特撮は「恐竜時代」と同じくレス・ボウイ。月面のミニチュアワークは東宝特撮を彷彿とさせるもので、「宇宙大戦争」に出てくるような月面探検車や、採掘用バリカンが装備されたブルドーザーなど、地味な新兵器がそこそこ登場してほほえましい。

「猫が人間を襲ったら・・・」という動物パニック映画を連想させるキャッチフレーズだが、その内容は、余命いくばくもない女富豪の甥と、その情婦による財産横領計画のサスペンスである。?

この作品で猫は、「状況を俯瞰して監視している不思議な守役」としての奇妙な存在である。まことに不気味に描かれているが、正義の味方であった。?

ワイラー役は「真説フランケンシュタイン」のクリーチャーを演じたマイケル・サラザン。カシア役には、「ヘルハウス」のゲイル・ハニカットである。?

ハニカットの「美貌を武器にした悪女ぶり」はなかなかのもので見ているだけで楽しい。?
そしてサラザンの、ろくでなしの悪者然とした演技も、実は「財産と恵まれない弟のために奔走している正義漢」だった、というどんでん返しの良いスパイスになっている。?

監督は「エアポート'80」のデヴィッド・ローウェル・リッチ、脚本はジョセフ・ステファーノ。?

60年代最後の、アメリカ映画の埋もれた逸品である。

ハマーのシリーズ5作目。

久しぶりに極めて冷酷な男爵の登場である。いつものカッシングテイストの芝居であるが、緊張感が違う。また、シリーズの中で最も短髪でスタイルもカッチリまとまっており、それがまた冷酷さを増幅させているようだ。「スターウォーズ」のターキン総督の若い頃はこうだったかもしれない、という印象。

 男爵は「ノックス博士には二人の助手がいた」とカールに説く。イギリスの犯罪史でも知られる「ロバート・ノックス医師と、検体用の死体調達人バークとヘアによる連続殺人」の事件のことだ。男爵はノックス博士に自分を投影するのだ。カッシングは1959年に「死体解剖記」でそのノックス医師に扮している。事情通にはちょいとニヤリとしてしまう一幕。

 加えて、男爵による通り魔殺人と、核心に迫りながらも結局犯人を捕まえることの出来なかった警察は、切り裂きジャックの事件を彷彿とさせる。

 イギリスに暗い影を落とした歴代の猟奇殺人事件が色濃く反映されているようだ。イギリス人にとっては風刺的な作品だったのではないだろうか?

 宿屋のサロンで宿泊客が、男爵がいる場で、新聞の(男爵の起こした)殺人事件の記事を話題にし「(殺人鬼が)隣にいても気付かないのが怖い」と語るところは、思うに「イギリス国民の心情」そのままなのであろう。

 サスペンス性が強く、スピーディな展開。日本で公開された最後のハマー・プロのフランケンシュタイン映画である。

 一瞬、スタッフが映ってしまうダウトがある。