1960⇒1969

フランケンシュタイン 恐怖の生体実験(1969)

"FRANKENSTEIN MUST BE DESTROYED"
イギリス / ハマー・フィルム・プロダクション

[Staff]
制作:アンソニー・ネルソン・キース
監督:テレンス・フィッシャー
脚本:バート・バット
撮影:アーサー・グラント
メイク:エディ・ナイト
音楽:ジェームス・バーナード
配給:ワーナー・ブラザーズ

[Cast]
フランケンシュタイン男爵・・・ピーター・カッシング
アンナ・・・ヴェロニカ・カールソン
リヒター教授・・・フレディ・ジョーンズ
カール・・・サイモン・ウォード
フリッシュ警部・・・ソーリー・ウォルターズ
ブラント夫人・・・マキシン・オードリー
ブラント博士・・・ジョージ・プラヴダ
狂女・・・コレット・オニール
ハイデッカー博士・・・ジム・コリアー

[Story]
 脳移植手術の提唱をしたために医学界と祖国から追放され、逃亡生活を続けていたフランケンシュタイン男爵は、若き女性・アナの営む宿屋を仮の住まいとした。男爵はそこで、脳移植手術の共同研究者・ブラント博士の近況を知る。ブラントの研究は男爵よりも先んじていたが、発狂したためにアナのフィアンセ、カール医師の務めるサナトリウムに収容されていた。男爵は自らの手でブラントを治療し、その方法を聞き出す計画をたてた。

 カールは、アナの母親の病のために、高額な薬品を非合法にアナに横流しをしていた。その秘密を知った男爵は、カールとアナを計画に協力するよう脅迫した。

 三人は、ブラント博士をサナトリウムから連れだすが、拉致に手間取った上にブラントは心臓発作を起こし、瀕死の状態になってしまった。ブラントを生かすには、その脳を他の身体に移植するしかない。男爵は「脳の入れ物」として、サナトリウムのリクター博士をターゲットにした。リクター博士は拉致され、ブラントの脳はリクターの身体に移された。

 脳を正常に戻されて蘇生したブラントは、自分に何が起こったのかを察し、アナに助けを乞うたが、アナはその姿を見て恐れ、メスでブラントを刺してしまった。ブラントは傷を負ったまま逃亡。それを知った男爵は激昂し、ブラントを逃がしてしまったアナを刺殺、そしてブラントの行方を追った。変わり果てたアナを見たカールもまた、男爵を追った。

 ブラントは自宅に戻り、やがてやってくるであろう男爵との決闘に備えた。家じゅうに灯油を播き、怯える妻を逃がした。そして思惑通り、男爵はやってきた。ブラントは家に火を放ち、男爵との格闘の末、二人は燃え盛る炎の中に消えていったのである。

[Text]

ハマーのシリーズ5作目。

久しぶりに極めて冷酷な男爵の登場である。いつものカッシングテイストの芝居であるが、緊張感が違う。また、シリーズの中で最も短髪でスタイルもカッチリまとまっており、それがまた冷酷さを増幅させているようだ。「スターウォーズ」のターキン総督の若い頃はこうだったかもしれない、という印象。

 男爵は「ノックス博士には二人の助手がいた」とカールに説く。イギリスの犯罪史でも知られる「ロバート・ノックス医師と、検体用の死体調達人バークとヘアによる連続殺人」の事件のことだ。男爵はノックス博士に自分を投影するのだ。カッシングは1959年に「死体解剖記」でそのノックス医師に扮している。事情通にはちょいとニヤリとしてしまう一幕。

 加えて、男爵による通り魔殺人と、核心に迫りながらも結局犯人を捕まえることの出来なかった警察は、切り裂きジャックの事件を彷彿とさせる。

 イギリスに暗い影を落とした歴代の猟奇殺人事件が色濃く反映されているようだ。イギリス人にとっては風刺的な作品だったのではないだろうか?

 宿屋のサロンで宿泊客が、男爵がいる場で、新聞の(男爵の起こした)殺人事件の記事を話題にし「(殺人鬼が)隣にいても気付かないのが怖い」と語るところは、思うに「イギリス国民の心情」そのままなのであろう。

 サスペンス性が強く、スピーディな展開。日本で公開された最後のハマー・プロのフランケンシュタイン映画である。

 一瞬、スタッフが映ってしまうダウトがある。