1960⇒1969

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魔像ゴーレム 呪いの影

 ハマー・ホラー隆盛の渦中にあった1960年代のイギリスで作られた作品で、制作、監督、脚本のハーバート・J・レダーはハマー・ホラーにインスパイアした格好で映画を制作。ことに、カメラワークと音楽効果にハマーを意識するようにと直接指示を与えている。数々の古典怪物を復活させていたハマー・プロであったが、ゴーレム物には着手していなかったので、「もしも、ハマーがゴーレムを作ったら?」という遊び心が垣間見られ、その意味で良好な結果を遺したと言える。音楽を担当したのはハマーの『怪奇ミイラ男』(1964)、『魔獣大陸』(1967)のカルロ・マルテッリ。本作の主題曲は『怪奇ミイラ男』の流用。

 セブンアーツ・プロがワーナー・ブラザーズを買収してからの初の映画作品。『怪奇!呪いの生体実験』(1967)と二本立てで公開された。

 『サンゲリア』(1980)の主人公・ピーターを演じたイアン・マカロック(ウェイン警部補役)のデビュー作である。

ミイラ怪人の呪い

 ハマーのミイラ男シリーズ第三作目。15年に渡ってハマー・プロの作品を生み出してきたブレイ・スタジオで撮影された最後の作品である。

 古代エジプトの回想シーンのプロローグは7分に及ぶ。ナレーションは通説ではピーター・カッシングとされてきたがこれは間違いで実際のナレーターはティム・タナーである。同じくプロローグでファラオの従者役のディッキー・オーウェンは前作『怪奇ミイラ男』(1964)でミイラ男を演じた役者。また、ミイラ男に扮したのはエディ・パウエル。英国を代表するスタント・マンで、007シリーズをはじめ華々しいキャリアの持ち主である。ハマーではクリストファー・リーのスタント・マンとして知られ、ハマー・ホラーを語る上では外せない重要人物だ。『エイリアン』(1979)のスーツ・アクターでもある。

原題にある『Shroud』とは、古代エジプトで埋葬される際の死体を包む布のことで、日本で言うところの経帷子に当たる。テレビ放映される際にはこれを「王旗」としたが、イギリスでいうところの「王旗」は"Royal Standard"となる。実のところ日本語で本作の『Shroud』に該当する適当な言葉が無い。

【シエラ・デ・コブレ村】

 メキシコは鉱山のメッカとして知られ、金、銀、銅とあらゆる鉱物が採掘される。シエラ・デ・コブレは、錫(すず)が採掘されるばかりの貧しい村である。そこに生まれたポーリーナは金脈を求めてアメリカから渡ってきた男と恋仲になった。その二人の間に生まれたのがヴィヴィアである。しかし、夫婦関係は上手く行かず、ヴィヴィアの父は妻の我儘で強欲な性格に振り回されて働き続け、時には物乞いをすることもあった。それでも満足いかないポーリーナは、娘のヴィヴィアを巻き込んで幽霊騒ぎをでっち上げ観光資源商売に手を出した。ヴィヴィアに客を地下墓地に連れてこさせ、ポーリーナは幽霊に扮して物陰から唸り声と共に出現し、客たちに「黒い血(ススで着色した砂糖水)」を浴びせるという稚拙なアトラクションであった。ある時、ポーリーナは地下墓地でアヤワスカ(別名:ヤヘイ)と呼ばれる幻覚作用をもたらす植物を発見する。ポーリーナはそれを飴に加工して客たちに与えたところ、幽霊騒ぎに一定の効果を示したので、以後の幽霊アトラクションの必須アイテムとなる。

【事件】

 幽霊観光でアクシデントが起きた。参加者の1人、アメリカ人の女教師に幻覚剤の効果が出なかったのである。この事で女教師はポーリーナに苦情を入れ、賃金の支払いを拒否。このためポーリーナは女教師に幻覚剤を大量に投与するに至り、女教師は狂気に陥った。その様を見たポーリーナとヴィヴィアは恐怖と危険に駆られ、小さな霊廟に女教師を閉じ込めてその場から逃げたのである。後にそこから女教師の死体が発見された。

【心霊探偵ネルソンの調査】

 観光客が幽霊の呪いで殺されたという噂は瞬く間に村に広まり、シェラ・デ・コブレの村役場(当局)は、心霊探偵として知られている建築家、ネルソン・オライオンに調査を依頼した。ネルソンは彼のそれまでの経験から心霊現象ではない事を当局に伝え、被害者の遺体の検死を勧めた。その結果、死因がアヤワスカ(ヤヘイ)による薬物中毒によるものと判明。しかし、これは村人の誰かが殺人を犯したことを意味するもので、ネルソンの除霊を期待した迷信深い村人たちが容認できるものではなかった。彼らは「ネルソンは除霊の失敗を自らの保身のために村人の殺人とすり替えた」とし、ネルソンに汚名を着せることになった。

【ヴィヴィアのその後】

 ヴィヴィアの父は、日頃からヴィヴィアに虐待を加えてこき使うポーリーナに愛想をつかして、ヴィヴィアを連れて故国アメリカに帰る。その後の経緯は不明だが、ヴィヴィアはアメリカ屈指の資産家マンドール家に嫁ぎ、一人息子ヘンリーの妻となる。映画では語られないが、義母のルイーズから信頼されていたのだろう。ルイーズの基金団体の管理人として堅実なキャリアと積み、目の不自由な夫にも甲斐甲斐しく尽くす良妻にもなる。

【マンドール家】

 マンドール家はアメリカ屈指の広大な土地を持つ。この土地は長い間分譲されず、古来からの自然の姿をそのまま残していた。後継者はヘンリーただ一人でその相続はいずれヴィヴィアのものとなる。1960年現在の資産価値は750万ドルで、ある筋からの購入希望もある。

【ポーリーナのその後】

 行方知れずになった夫と娘ヴィヴィアを方々捜して時は過ぎ、新聞でヴィヴィアがマンドール家に嫁いだことを知る。それに乗じてマンドール家に入り込むことを画策。何らかの形で屋敷の召使いたちを買収して辞職させ、ヴィヴィアが出張で留守にしている隙を狙って家政婦として入り込んだ。目的は、娘ヴィヴィアを利用してのマンドール家の財産横領である。

【幽霊は三人】

1:電話から聞こえる亡きルイーズの泣き声
 ヘンリーの部屋に設置されている黒電話に夜な夜なかかってくる女性の悲鳴のような泣き声。その電話は、ヘンリーの母ルイーズが「生き埋葬」を怖れて、万が一に霊廟で息を吹き返した時のために棺桶の横に設置した黒電話と直通である。つまり、その電話の主は死んだルイーズ夫人ということになるのだが、声の主はポーリーナであった。

2:ヴィヴィアの前に現れた幽霊
 シエラ・デ・コブレでポーリーナによって殺されたアメリカ人女教師の幽霊。本作のタイトルロールとも言える本物である。ポーリーナの悪事を暴露させるためにヴィヴィアの前に現れた。ヘンリーには直接干渉しない。当初、ヴィヴィアの前にのみ現れるので彼女の幻覚と思われたが、ポーリーナがネルソンに襲い掛かった時に二人の前に姿を現したことで幽霊の存在が証明された。ポーリーナを返り討ちにして殺害。

3:ポーリーナの幽霊
 ポーリーナは女教師の幽霊に祟り殺された後、ヴィヴィアの車に運ばれた。警察に自首することを決意し、車で出頭しようとしたヴィヴィアの前に突如としてポーリーナの幽霊が現れ、自らが娘に投与していた鎮静剤を渡す。ヴィヴィアはそれを振り切って車を暴走させ、崖から落ちて自死することになった。ネルソン曰く、「彼女は死して尚、強欲になった。小さい頃から良い様に使ってきた娘を道連れにした」と。

 

【作品解説】

 アルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』(1960)で脚本を担当したことで一躍有名になったジョセフ・ステファノは、ABC制作のSFテレビドラマシリーズ『アウター・リミッツ』のヒットに大きく貢献したが、何らかの事情でABCと袂を分かち、その後CBSに声をかけられた。ステファノは『アウター・リミッツ』の対抗馬として、ホラーをテーマとしたテレビシリーズ『Haunted』を企画。そのパイロット版として作られたのが『シエラ・デ・コブレの幽霊』である。本来は54分の中編作品だったが、その後に追加撮影と編集を経て81分版が作られた。メガホンをとったのはステファノ本人であるが、本作が彼にとっての最初で最後の監督作品となった。

 結果的にテレビ番組『Haunted』は実現しなかった。81分版を作って劇場公開も計画されたが、これも実現せずに、アメリカで本作はいわゆる「お蔵入り」となってしまったのだ。しかし製作費回収の名目で国外でのフィルムの貸し出しは行われた。

 日本では1967年にNETテレビ(現:テレビ朝日)の『日曜洋画劇場』で放送されている。全国放送はそれ一度きりで、以降ローカル局で数度放映されたそうだ。いずれにせよ、世界的にみても、本作を目にする機会は極めて少なかったと言わざるを得ず、日本ではテレビ放映を観た視聴者たちの間で話題となり、長きに渡って視聴する術を失っていたこともあって作品はSF・ホラー映画愛好家達の口伝えで伝説と化していった。

 わが国では、昭和42年8月20日(日)の21:00から2時間枠で本作と『ミイラ男の呪い(ミイラ再生)』(1931)の二本立てで放映された。吹き替え声優は穂積隆信、二階堂有希子、田中信夫・他。

毎日新聞 1967年(昭和42年)8月20日ラテ覧より。

【記事全文】
"「ミイラ男の呪い」ほか
アメリカ怪奇映画特集 日曜洋画劇場(NETテレビ後9・00)"怪奇映画特集"としてアメリカ映画「シェラデコブレの幽霊」とミイラ男の呪(のろ)い」の2本を放送する。
「シェラデコブレの幽霊」は「アンネの日記」「大都会の女」のダイアン・ベーカーらが出演。続発する幽霊事件が、実は財産を狙う女のたくらみであることをあばく物語。「ミイラ男の呪い」は、映画「フランケンシュタイン」もののボリス・カーロフらが出演。紀元前数世紀、エジプト第十八王朝がさかえたころを物語の舞台に、王女を恋した高僧が神の怒りにふれ生きたままミイラにされてしまうというものー。"(原文ママ)

【ウィキペディア】
日本版:『シェラ・デ・コブレの幽霊』
【IMDB】
『The Ghost of Sierra de Cobre』

ハマーのシリーズ4作目。
「フランケンシュタインの怒り」はフレディ・フランシスが監督だったが、本作でテレンス・フィッシャーに戻った。フィッシャーにとっては実に9年振りのフランケンシュタイン映画である。?


 不幸な若い恋人たちの悲恋に重点が置かれている。ハンスの父親は子供のハンスの目の前で首を飛ばされ、ハンスもまた、愛するクリスティーナの目の前で父と同じ死に方をする。親子二代に渡って、一番見られたくない人の目の前で命を絶たれるこのあたりは、非常に残酷だ。?

 「二人の魂は天国で結ばれました」という話はよくあるが、男爵が「魂は物体であり、死んでもある一定時間は体内に残る」ことを証明してしまったために、二人の魂はクリスティーナの中で融合する形で結ばれてしまった。また、二人の清い心は、あまりにもあまりの仕打ちに「凄まじい憎悪に満ちた怨念」に変わり、結果的に女性の形をした「怪物」になり果ててしまったのである。?

 復讐を遂げたクリスティーナは「男爵の目の前で」川に身を投げて命を絶つ。因果応報。男爵は最後の最後に、二人と同じ目を見た・・・と私は思う。暗く、救いが無く、とてつもなく悲しい物語であった。?

 「フランケンシュタインの逆襲」から数えて、ハマーホラーが10年目を迎えた時の作品。?
翌年の1968年にハマー・フィルムは莫大な利益を国にもたらした功績により、エリザベス女王から勲章を受ける栄誉を授かる。この時すでにホラー映画の世界市場はハマーホラーの独擅場であった。?

 また同時に、「2001年宇宙の旅」「猿の惑星」「ナイト・オブ・ザ・リヴィングデッド」の発表によって、SF・ホラー映画は新時代を迎えることになる。