1960⇒1969

2010年5月アーカイブ

華氏451

fahrenheit451_1.jpgレイ・ブラッドベリの有名小説をヌーベル・ヴァーグ(新たな波)の監督トリュフォーが映画化した。

実に若々しくて、若き製作者の「俺達の主張はこれなのだ。」という熱がある。

活字が禁止されている世界の映画なので、タイトルクレジットもオープニングクレジットも無く、キャストとスタッフが、ナレーションで語られる。これが実に珍妙な印象を受けるのだが、反面、「ここから先は文字が出てこない」という暗示めいたものも感じて、観ているほうはちょっと空恐ろしい。

文字を否定した世界の話だから、全編目に入る光景には文字が無い。番地も、看板も、表札も、普通にあるものがすべて無い。観ている方としては、これが結構苦痛だったりする。普通にある文字が無いというだけで、これだけ違和感を感じるのか。

当然この体制に反発する一派がいる。彼らは消防士(警察)に追われる存在。そして彼らは「本の人々」と呼ばれる観客の救世主だ。彼らは本を丸暗記して、人々に語って伝えるという使命を担っている。一人一人の名前がインディアンネームならぬ「本の題名」だ。実に高潔な人々でユーモアたっぷりな人々。

確かにいい映画ではあるが、個人的には生理的に受け付けない。文字の無い世界、文字がこれほど生活のうえで重要で落ち着くものかと再認識させられた。観てて吐き気がする感は否めない。あくまで個人的なものだが。

ちなみに、華氏451度は「本が自然発火する温度」のことだそうだ。

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恐怖の振り子

pitandpendulm02.jpgアッシャー家の惨劇(1960)」に続く、AIPのポー・シリーズ第2段。小説「落とし穴と振り子」「早すぎた埋葬」を基にリチャード・マシスンが脚色。
蓋を開けてみれば、「呪いを利用した財産横領の犯罪劇」であり、霊的な要素は全くないのでホラーというよりはサスペンス・スリラー映画だ。
しかし、冒頭の寂しい海岸、城から始まり、主人公が拷問室を去る最後まで「悪魔的」な雰囲気が絶えず、流れるように続くので恐怖色はとても強い。

見目麗しきエリザベスに扮するバーバラ・スティールの悪女っぷりが見どころである。
ポーの作品の特徴でもある「生き埋葬の恐怖」は、このシリーズでも何度となく使われるが、この「恐怖の振り子」のそれは、インパクトが大きく、ショッキング。
「この部屋は二度と開けない」と扉を閉めた後、鉄の箱に取り残されたバーバラ・スティールの恐怖に怯えた眼が、何とも怖い。

異端裁判に熱心だったニコラスの父親の思い出は、後年、ティム・バートン監督作品「スリーピーホロウ」でほぼそのまま引用されている。

ちなみに本作の象徴ともなっている「振り子」であるが、私のこの器具の原体験は子供の頃に観たテレビドラマ「江戸川乱歩シリーズ 死刑台の美女」だった。あまりに強烈なマシンだったので、しばらく夢に出てうなされた。よって、私はこの「振り子」が大嫌いである。