1960⇒1969

2015年10月アーカイブ

凶人ドラキュラ

 ハマー・フィルムのドラキュラ・シリーズ3作目にして、初作『吸血鬼ドラキュラ』の正式な続編。
 ストーカーの原作の権利を得て、初めて『魔人ドラキュラ』(1931)が公開されて以来、ドラキュラ映画は全てユニバーサル製作、もしくは配給で公開されたが、本作は初めてユニバーサル以外の資本によって製作されたドラキュラ映画である。これは、それまでユニバーサルが原作の映画化、及び舞台劇の脚本の権利を独占していたためである。しかし、1962年に原作者没後50年に至り、原作がパブリック・ドメインとなったため、キャラクターの使用については権利の束縛が消失したのである。
 クリストファー・リーのドラキュラ役は実に8年ぶりのこと。ドラキュラの登場シーンは諸々、初作の焼き直しとなった。本作にはドラキュラの台詞が無く、そのために徹底して怪物としての存在になっている。リーの美声が聴くことが出来ないのは寂しい限りだが、ドラキュラの登場シーンは全て見せ場となっている。台詞に関しては「意味が無いので削除させた」と主張するリーに対して、脚本家のジミー・サングスターは「最初から無かった」と、りーの主張を否定している。サングスターはリーの主張に関して「何かと勘違いしているのだろう」と述べている。

 物語は至極シンプルで、いわゆる「子供に聞かせるおとぎ話」の体裁を整えており、吸血鬼ドラキュラという怪物を紹介するには理想的な作品だと言える。おそらく、今日世間一般に知られているドラキュラの印象は、本作が最も強い影響を及ぼしていることだろう。

 撮影を終えて編集作業に入り、映画を完成させたところ、予定よりも時間が短くなってしまったために、急遽前作のクライマックスをプロローグとして差し込むことになったが、これによって本作に出演していないピーター・カッシングのギャランティが発生してしまった。これに関しては、制作側がカッシングの家の屋根の修繕を請け負う事で相殺された。

 ドラキュラのスタントを務めたのは、ハマー・ホラーでは常連のエディ・パウエル。ラストの水没シーンでは、堀に沈んだ後に水中に設置してあったはずの酸素ボンベが見つからず、あわや溺死するところだったという。

 バーバラ・シェリーは、城の地下でアランの死体を発見して叫び声を挙げるところで、元々声質が低く、思うように悲鳴が出せなかったため、本編ではスーザン・ファーマーが悲鳴のアテレコをしている。

 配給元の20世紀FOXはエリザベス・テイラー主演の超大作『クレオパトラ』(1963)の興行的失敗(映画はヒットしたが、巨額の製作費を回収するまでに至らなかった)によって屋台骨が傾げ、経営危機に陥ったが、『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)のヒット等で徐々に再建の道を見出した。この時、『凶人ドラキュラ』をはじめとするハマーの20世紀FOXシリーズもその一助として大いに貢献したという。