1970⇒1979

ドラキュラ (1979)

"DRACULA"
アメリカ / ウォルター・ミリッシュ/ジョン・バダム・プロ

[Staff]
制作:マービン・ミリッシュ、ウォルター・ミリッシュ
監督:ジョン・バダム
脚本:W・D・リヒター
原作:ブラム・ストーカー
撮影:ギルバート・テイラー
音楽:ジョン・ウィリアムス
配給:ユニバーサル

[Cast]
ヴァン・ヘルシング教授・・・ローレンス・オリヴィエ
ドラキュラ伯爵・・・フランク・ランジェラ
セワード博士・・・ドナルド・プレザンス
ジョナサン・ハーカー・・・トレヴァー・イヴ
ルーシー・・・ケイト・ネリガン
ミーナ・・・ジャン・フランシス
レンフィールド・・・トニー・ヘイガース

[Story]
 19世紀末のこと。イギリス・ウィットビーにやってきたドラキュラ伯爵は古城カーファックスに居を構え、近隣のセワード精神病院長のセワード博士一家に近づき、セワードの娘ルーシーを狙う。ドラキュラがルーシーの友・ミーナを牙にかけて殺害したことでミーナの父であるヴァン・ヘルシング教授が招かれ、教授の調査によってドラキュラ伯爵が吸血鬼であることが暴かれる。ドラキュラはルーシーをさらって故国トランシルバニアへと逃亡するが、港を出た貨物船に教授らに追いつかれ、教授の死をもってその悪行を絶たれるのであった。

[Text]

 1977年10月にニューヨークのマーチン・ベック・シアターで上演された舞台劇「ドラキュラ」のヒットを受けて、舞台でドラキュラ伯爵を演じた、フランク・ランジェラを招いての映画化。監督は『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)、『ブルーサンダ―』(1983)のジョン・バダム。音楽はジョン・ウィリアムス。ドラキュラを迎え撃つヘルシング教授が、ピーター・カッシングの師匠にあたるローレンス・オリヴィエ、相棒のセワード博士がドナルド・プレザンス。

 戦前のユニバーサル製怪奇映画『魔人ドラキュラ』(1931)のリメイクであり、同社の正統派ドラキュラ映画としては実に58年ぶりの映画化である。ユニバーサル映画のドラキュラは31年の映画化の際、メイク・アップ・アーティストのジャック・P・ピアースが原作通りのメイクを検討しており、牙もつける予定だったが、ドラキュラ役のベラ・ルゴシがそれを拒否したため、以来、同社のドラキュラ(及び吸血鬼)役者は「牙を着けない」という暗黙のセオリーがあった。79年版では、ランジェラがこの件に言及し、「牙を着けないことがオリジナル映画ファンへのメッセージ」としている。 本作でも他聞に漏れず、ドラキュラに牙は無いものの、血を吸われ「半吸血鬼」となったルーシーが赤いコンタクトと牙を着けた姿を披露。これが、ユニバーサルで初めて吸血鬼が牙を(そして赤いコンタクトを)着けた事例となった。ちなみに同社のドラキュラが牙を携えたのは、『ヴァン・ヘルシング』(2004)でのリチャード・ロクスバーグのドラキュラが初めてであるが、CG処理での牙だった。実際に牙を装着したドラキュラの例は、ユニバーサルでは無い。

 ジョナサン・ハーカーがカーファックスから車で移動中、レンフィールドに襲われる森の中のシーンで、一匹のコウモリが現れるが、見たところハワイに棲息する「フルーツバット」である。勿論、イギリスには(野生では)いない。さらにいうと本作でドラキュラが変身するコウモリはチスイコウモリである。この森のフルーツバットがドラキュラなのかどうかは不明だが、皮肉にもフルーツバットの方がランジェラの顔に似ている。ちなみにヨーロッパには吸血コウモリ自体が棲息しない。?

 セワード役のドナルド・プレザンスは、当初ヴァン・ヘルシング役を依頼されていたが、役柄が『ハロウィン』(1978)のルーミス博士に酷似していたことを理由に辞退し、セワード博士役を快諾したという。セワード博士は本作のコメディ・リリーフの役割で、登場シーンは全て「何かを食べている」という約束事がある。その食べ方は汚く、ことに伯爵を招いた晩さん会では、セワードのテーブルの食い散らかしようは惨憺たるものである。セワードは要所要所で「ギャグ」をかましているのだが、相棒のローレンス・オリヴィエの芝居が重厚で立ち過ぎているため、ことごとくギャグが生かされていない。

 ヴァン・ヘルシング教授に扮したローレンス・オリヴィエは、撮影時にすでに病(ガン)に侵され、体調が芳しくなかったとのこと。言わずと知れた世界的なシェイクスピア俳優であるが、この時はすでに舞台に立てるだけの体力が無く、演技時間が比較的短い「映画」の仕事に喜びを感じていたという。スタントマンを使うことを泣いて悔しがった、という逸話が残っている。ラストシーンで、ドラキュラに返り打ちに会い、胸に杭を刺される一瞬のシーンは顔が映るが別人である。

 ヒロインを演じたケイト・ネリガンは、後年、ジャック・ニコルソン主演の「ウルフ」でニコルソンの妻の役でお目見えした。

 レンフィールドを演じているトニー・ヘイガースはロイヤル・シェイクスピア・カンパニー所属というれっきとしたシェイクスピア俳優であり、日本での来日公演にも参加している。筆者の記憶では「テンペスト」のキャリバン役。1997年には舞台「12人の怒れる男」で、ローレンス・オリヴィエ賞にノミネートされている。

 79年のドラキュラブームの火付け役の一本で、大作として作られたが、同年製作されたコメディ映画「ドラキュラ都へ行く」の方に脚光が当たり、正統派の本作は影が薄くなった。日本はおろか、本国でも不入りに終わったという。原因はドラキュラ役のフランク・ランジェラである、ともっぱらの評判である。この当時、フランク・ランジェラは舞台、映画に引っ張りだこではあった。舞台ではシャーロック・ホームズ、テレビドラマでは怪傑ゾロを演じた。

 
frank-langella.jpg【舞台劇について】
 ハミルトン・ディーンによって1920年代に書かれた舞台劇『ドラキュラ』は、原作者夫人から正式に許可を取り、メディアとしては世界初の正式な形で発表されたもの。舞台構成の都合上、原作を大きく改編しているが、以後のドラキュラ映画の下敷きになっている「第2の原作」のようなものである。小劇団向けの芝居で、映画『ドラキュラ』はこの舞台劇に最も忠実な形で映画化されている。舞台劇は3幕2場の構成で、ドラキュラ城のシークエンスが無く、セワード博士の院長室とカーファックス修道院の納骨堂のみで展開される「室内劇」で、ドラキュラは「招待客」として登場する。そもそもこの戯曲が書かれた時代の小劇場芝居は室内劇が主流だったこともあり、大陸を股にかけた壮大なスケールの物語は無理があった。このためにもともと怪物性の高い容姿だったドラキュラは、上流階級の家に客として招かれるだけの気品と作法を備えざるを得なくなり、「夜会服の貴公子」というスタイルが確立されたという。

ヘルシング教授とドラキュラの対決シーンは、79年版の映画が舞台劇に最も忠実である。フランク・ランジェラは、この芝居でトニー賞にノミネートされた。
 ミーナとルーシーの名前が入れ替わっているのも舞台劇と同じ。 記録では、ランジェラが舞台でドラキュラを演じたのが1977年のことであり、翌年の再演ではジェレミー・ブレット、さらにその翌年はラウル・ジュリアがドラキュラを演じたという。

ドラキュラ HDリマスター版 [Blu-ray]

新品価格
¥3,621から
(2013/8/20 02:56時点)