1970⇒1979

バンパイアキラーの謎(1970)

"Scream and Scream again"
イギリス / AIP=アミカスプロ タイゴン

[Staff]
制作:マックス・ローゼンバーグ/ミルトン・サボツキー/ルイス・M・ヘイワード
監督:ゴードン・ヘスラー
脚本:クリストファー・ウィッキング
原作:ピーター・サクソン 『The Disorientated Man』
撮影:ジョン・コクイロン/レス・ヤング
メイク:ジミー・エヴァンズ/ベティ・シェリフ(ヘア・スタイリスト)
音楽:デヴィッド・ワイタッカー
配給:AIP

[Cast]
ブラウニング博士・・・ヴィンセント・プライス
フレモント・・・クリストファー・リー
ハインリヒ・ベネデク少佐・・・ピーター・カッシング
シルヴィア・・・ジュディ・ハクスタブル
ベラヴァ警視・・・アルフレッド・マークス
キース・・・マイケル・コザード
ルドヴィク国務大臣・・・アンソニー・ニューランズ
シュヴァイツ・・・ピーター・サリス
ソレル医師・・・クリストファー・マシューズ
コンラッツ・・・マーシャル・ジョーンズ

[Story]
ロンドン。ジョギングをする男(以後ジョガー)が突如苦しみ出し、気を失った。彼が気付くとそこは病室。無表情な看護師が現れるが黙して語らず、要領を得ない。看護師がいなくなると、彼は右足を切断されていたことに気付き、絶叫する。彼はこの後、四肢を次々に切断されていく。何故このようなことになるのだろか?
一方、政権樹立5年を迎える東側某国家軍部では、諜報員コンラッツが西側兵器の情報収集に多大な貢献をしていたが、一部の高官しか知りえない電波妨害装置の機密情報を知っていた彼に上官シュヴァイツは脅威を覚える。コンラッツは不思議な力でシュヴァイツを殺害し、彼の地位を手に入れ、後にそのまた上官のベネデク少佐をも殺害。そのまま頂点に上り詰め、軍部を掌握する。
対する西側、イギリス諜報部のフレモントは東側への偵察機の存在が何者かにばれてパイロットが行方不明となり、敵国の捕虜となる事態を受けて頭を痛めていた。 この時、奇妙な殺人事件が発生していた。アイリーンという名の女性が暴行を受けた末、全身の血を抜き取られた変死体となって発見された。アイリーンは外科医ブラウニング博士の使用人であった。遺体は直ぐに解剖に回され、キングスミル教授とその助手ソレル医師の執刀で検死が行われた。
 ロンドン警視庁のベラヴァ警視が捜査を進める中、同じ手口の殺人事件が再び発生、被害者女性はダンスホールで夜遊びにふける女性だった。これを受けて警察はおとり捜査を決行、犯人と接触することに成功するが囮となった婦人警官が犠牲となった。犯人が婦人警官の手首から血を吸う現場を目撃した刑事らは車で逃亡した犯人を追跡し、一度は捕獲したものの犯人は自らの手首を切り落として手錠から逃れてさらに逃亡、ブラウニング博士の屋敷の納屋へと逃げ込み、追手の迫る中で硫酸槽に身を投げて消滅した。ベラヴァはブラウニング博士に犯人との関係や硫酸槽の必要性などの事情を聞くが、博士はのらりくらりと話をはぐらかすばかりであった。そして犯人の遺した手首が解剖に回され、その結果、それが人工的に作られたものであることが判明。その後ブラウニングの看護師によって警察に保管された腕が盗み出された。その際、現場を目撃した女性検死官が看護師に強靭な力で撲殺されてしまった。 東側某国では国務大臣がイギリス大使からパイロットの消息を知らせるよう矢の催促を受けており、大臣はコンラッツに苦情を入れたが、コンラッツは回答を頑なに拒否した上で大臣を秘密裏に抹殺。ロンドン警視庁では事件の捜査が上層部の命令で打ち切られようとしていた。それに異を唱えたソレルは同僚のシルヴィアと共に独自に調査を開始。二人は車で件の納屋へ行くと、槽の中の硫酸は全て抜き取られていた。と、その時、ソレルを残して、シルヴィアは車ごと消えた。
 トラファルガー広場でフレモントとコンラッツが面会し、東西の政治的取引をした。偵察機のパイロットをイギリスに返す見返りとして、コンラッツが要求したのは、ロンドン警視庁が収集した吸血鬼事件の捜査資料の全てだった。
 拉致されたシルヴィアがベッドの上で目を覚ます。四肢を切り刻まれた青年と同じ部屋。そこにはあの看護師がいた。
 ベラヴァのもとにコンラッツがワイズ教授と名を偽って姿を現した。事件の資料を閲覧するためであったが、資料を奪取するためにコンラッツは不思議な力でベラヴァを殺害してしまう。
 ソレル医師がブラウニング博士邸の研究室に忍び込むと、そこには冷凍保存されたジョギングの青年のバラバラ死体があった。そしてソレルはブラウニング博士に見つかり、博士は事件のあらましを語り始めるのであった。
 博士は人間の優れた部位を繋ぎ合わせて合成人間を作る研究をしていた。当初は自己を持たないロボットのような人間を作っており、それらは召使いや看護婦として利用していた。やがて自我を持つ合成人間キースを開発したが、何かの不具合で人の血を吸う習性を持つようになり、殺人を犯すようになった。そもそもはは人口過剰、公害、飢餓、核戦争などの社会問題でいずれ起きるであろう人類滅亡を防ぎ、人類向上のための粛清がその目的だったのだ。ソレルは博士の研究に興味を示すが、手術台に乗る合成人間とシルヴィアの姿を見て博士に反旗を翻す。しかし、博士の怪力でそれを妨げられた。博士もまた合成人間だったのである。シルヴィアと合成人間の脳移植の手術が行われようとしたとき、コンラッツが姿を現した。彼はブラウニングの看護婦が起こした殺人事件が某国で報道されるに至り、これまで兵器開発に貢献してきた博士の研究の暴走を危険として亡きものにしようとしたのである。コンラッツはブラウニングの「お気に入りの作品」であった看護師を硫酸槽に落として破壊し、それに抵抗したブラウニングはコンラッツと格闘の末にコンラッツを硫酸槽に落とした。コンラッツもまた、合成人間であった。ブラウニングの暴走を終息させるべく、あフレモントが姿を現す。ブラウニングは言う。「コンラッツが悪に染まったことで、我々合成人間が完全でないことがわかった。権力の腐敗が合成人間を悪に染める。悪に染まった仲間を破壊しよう、手遅れにならないうちに」するとフレモントはブラウニングにこう言った。「今が手遅れなのだよ」それを聞いたブラウニングは、自ら硫酸槽に身を投じるのであった。寸でのところで救われたソレルとシルヴィア、ソレルがフレモントに「すべて終わりましたね」というと、フレモントは「これは始まりなのだ」と答えた。

[Text]

AIPとアミカスの提携作品として製作された、ピーター・サクソンの小説『The Disorientated Man(混乱させられた男)』(1967)の映画化作品。原作には忠実だという。

ジョギング中に何者かに隔離され、四肢を次々に奪われていく男。冷戦下における東西諜報部の情報の奪い合い、世間を騒がす猟奇連続殺人、といった、一見無関係に見える事象が交錯し、物語が進むにつれて一つの大きな陰謀にたどり着く。

 原作では事件はエイリアンの陰謀であることが明らかになり、映画もラストはエイリアンの存在を明らかにするものだったが、結果的にそれらの要素は全てカットされ、黒幕の正体は不可解なままにされ、正体不明の優等民族の存在が仄めかされる。ヴィンセント・プライス、クリストファー・リー、ピーター・カッシングの三大怪奇スターの共演が嬉しい。三人が同じ場面に勢ぞろいしないのは寂しいところだが、それぞれのエピソードの頭領としてその存在感を発揮している。悪役のコンラッツとその上司ベネデク少佐(ピーター・カッシング)のシーンのやり取りは、ダースベイダーとターキン総督を彷彿させるもので、考えてみれば、コンラッツに肩に触れられただけで死んでしまうトボけた設定もフォースに見えなくもない。また、優等民族が人間をスクラップ・アンド・ビルドすることで優秀な合成人間に作り替え、それを軍隊にする計画を示唆し、劣等人種である人類を粛清し、優等民族の世界を目指す帝国軍的な優生思想など、深く分析していくと『スターウォーズ』の原型がそこにはあるようにも思える。

 事件を捜査する検死官ソレルに扮するのはクリストファー・マシューズ。ハマー・ホラーのファンには『ドラキュラ復活!血のエクソシズム』(1970)のポール役でお馴染みだ。ハマー・ホラーと言えば『恐怖の吸血美女』(1971)の女吸血鬼ミアカーラに扮したユッテ・ステンスガード、『吸血狼男』(1960)、『ドラキュラ血の味』(1969)のピーター・サリスも顔を出している。