1960⇒1969

シエラ・デ・コブレの幽霊(1967(1964))

"GHOST OF SIERRA DE COBRE"
アメリカ / Villa di Stefano Production

[Staff]
制作:ジョセフ・ステファノ
監督:ジョセフ・ステファノ/ロバート・スティーヴンス
脚本:ジョセフ・ステファノ
撮影:ウィリアム・A・フレイカー
音楽:ドミニク・フロンティア

[Cast]
ネルソン・オライオン・・・マーティン・ランドー
ポーリーナ・・・ジュディス・アンダーソン
フィンチ夫人・・・ネリー・バート
ヴィヴィア・・・ダイアン・ベイカー
ヘンリー・・・トム・シムコックス
学校教師の幽霊・・・プリシラ・モリル
スローン・・・ベネディクト・ストーン

[Story]
  アメリカ有数の富豪マンドール家では、盲目の当主ヘンリーが夜毎かかってくる電話に悩まされていた。受話器から聞こえてくるのは女の悲鳴のような泣き声。それはヘンリーの亡き母ルイーズの遺骸が収められた霊廟の、棺の横に置かれた電話からだった。ルイーズは幼い頃に誤って霊廟に閉じ込められたトラウマから「生き埋葬」を怖れ、万が一の時のために霊廟とヘンリーの部屋に直通電話を設置していたのである。ヘンリーは美しい妻ヴィヴィアを介して、有名建築家にして心霊現象のエキスパートであるネルソン・オライオンに調査を依頼した。ネルソンがヴィヴィアに霊廟を案内された時、怪異現象が起きた。突如どこからか猛烈な風が吹き荒れ、ヴィヴィアの前に謎の幽霊が出現したのである。錯乱するヴィヴィアに対しネルソンはなすすべもなく、自宅に連れ帰った。
  ヴィヴィアはネルソンと家政婦フィンチ夫人の介抱を受けて回復し、屋敷に送り届けられた。当主ヘンリーとの面会を果たしたネルソンであったが、同席していたマンドール家の家政婦ポーリーナから激しく詰られる事態となる。ポーリーナとネルソンの間には過去の確執があった。
  ネルソンがかつて、メキシコのシエラ・デ・コブレ村で起きた「幽霊によるアメリカ人女教師の死亡事件」の調査依頼を受けた際、彼はそれが幽霊の仕業ではなく、幽霊を騙った何者かによる殺人事件だと断定した。しかし村の当局はこれを黙殺し、ネルソンは除霊失敗の汚名を被って村を追われたのである。ポーリーナはその村の出身で、ネルソンに恨みを抱く一人だったのだ。
  そして再び異変が起きた。何者かがネルソンの調査を妨害している。ネルソンは家政婦にして徹底した現実主義者であるフィンチ夫人の助力を得て事件を解析していく。誰が、何のために、どのようにして怪奇現象を起こしているのか?次第にヘンリーの身に起きている怪異現象の正体とその目的が浮き彫りになっていくのだった。

[Text]

【シエラ・デ・コブレ村】

 メキシコは鉱山のメッカとして知られ、金、銀、銅とあらゆる鉱物が採掘される。シエラ・デ・コブレは、錫(すず)が採掘されるばかりの貧しい村である。そこに生まれたポーリーナは金脈を求めてアメリカから渡ってきた男と恋仲になった。その二人の間に生まれたのがヴィヴィアである。しかし、夫婦関係は上手く行かず、ヴィヴィアの父は妻の我儘で強欲な性格に振り回されて働き続け、時には物乞いをすることもあった。それでも満足いかないポーリーナは、娘のヴィヴィアを巻き込んで幽霊騒ぎをでっち上げ観光資源商売に手を出した。ヴィヴィアに客を地下墓地に連れてこさせ、ポーリーナは幽霊に扮して物陰から唸り声と共に出現し、客たちに「黒い血(ススで着色した砂糖水)」を浴びせるという稚拙なアトラクションであった。ある時、ポーリーナは地下墓地でアヤワスカ(別名:ヤヘイ)と呼ばれる幻覚作用をもたらす植物を発見する。ポーリーナはそれを飴に加工して客たちに与えたところ、幽霊騒ぎに一定の効果を示したので、以後の幽霊アトラクションの必須アイテムとなる。

【事件】

 幽霊観光でアクシデントが起きた。参加者の1人、アメリカ人の女教師に幻覚剤の効果が出なかったのである。この事で女教師はポーリーナに苦情を入れ、賃金の支払いを拒否。このためポーリーナは女教師に幻覚剤を大量に投与するに至り、女教師は狂気に陥った。その様を見たポーリーナとヴィヴィアは恐怖と危険に駆られ、小さな霊廟に女教師を閉じ込めてその場から逃げたのである。後にそこから女教師の死体が発見された。

【心霊探偵ネルソンの調査】

 観光客が幽霊の呪いで殺されたという噂は瞬く間に村に広まり、シェラ・デ・コブレの村役場(当局)は、心霊探偵として知られている建築家、ネルソン・オライオンに調査を依頼した。ネルソンは彼のそれまでの経験から心霊現象ではない事を当局に伝え、被害者の遺体の検死を勧めた。その結果、死因がアヤワスカ(ヤヘイ)による薬物中毒によるものと判明。しかし、これは村人の誰かが殺人を犯したことを意味するもので、ネルソンの除霊を期待した迷信深い村人たちが容認できるものではなかった。彼らは「ネルソンは除霊の失敗を自らの保身のために村人の殺人とすり替えた」とし、ネルソンに汚名を着せることになった。

【ヴィヴィアのその後】

 ヴィヴィアの父は、日頃からヴィヴィアに虐待を加えてこき使うポーリーナに愛想をつかして、ヴィヴィアを連れて故国アメリカに帰る。その後の経緯は不明だが、ヴィヴィアはアメリカ屈指の資産家マンドール家に嫁ぎ、一人息子ヘンリーの妻となる。映画では語られないが、義母のルイーズから信頼されていたのだろう。ルイーズの基金団体の管理人として堅実なキャリアと積み、目の不自由な夫にも甲斐甲斐しく尽くす良妻にもなる。

【マンドール家】

 マンドール家はアメリカ屈指の広大な土地を持つ。この土地は長い間分譲されず、古来からの自然の姿をそのまま残していた。後継者はヘンリーただ一人でその相続はいずれヴィヴィアのものとなる。1960年現在の資産価値は750万ドルで、ある筋からの購入希望もある。

【ポーリーナのその後】

 行方知れずになった夫と娘ヴィヴィアを方々捜して時は過ぎ、新聞でヴィヴィアがマンドール家に嫁いだことを知る。それに乗じてマンドール家に入り込むことを画策。何らかの形で屋敷の召使いたちを買収して辞職させ、ヴィヴィアが出張で留守にしている隙を狙って家政婦として入り込んだ。目的は、娘ヴィヴィアを利用してのマンドール家の財産横領である。

【幽霊は三人】

1:電話から聞こえる亡きルイーズの泣き声
 ヘンリーの部屋に設置されている黒電話に夜な夜なかかってくる女性の悲鳴のような泣き声。その電話は、ヘンリーの母ルイーズが「生き埋葬」を怖れて、万が一に霊廟で息を吹き返した時のために棺桶の横に設置した黒電話と直通である。つまり、その電話の主は死んだルイーズ夫人ということになるのだが、声の主はポーリーナであった。

2:ヴィヴィアの前に現れた幽霊
 シエラ・デ・コブレでポーリーナによって殺されたアメリカ人女教師の幽霊。本作のタイトルロールとも言える本物である。ポーリーナの悪事を暴露させるためにヴィヴィアの前に現れた。ヘンリーには直接干渉しない。当初、ヴィヴィアの前にのみ現れるので彼女の幻覚と思われたが、ポーリーナがネルソンに襲い掛かった時に二人の前に姿を現したことで幽霊の存在が証明された。ポーリーナを返り討ちにして殺害。

3:ポーリーナの幽霊
 ポーリーナは女教師の幽霊に祟り殺された後、ヴィヴィアの車に運ばれた。警察に自首することを決意し、車で出頭しようとしたヴィヴィアの前に突如としてポーリーナの幽霊が現れ、自らが娘に投与していた鎮静剤を渡す。ヴィヴィアはそれを振り切って車を暴走させ、崖から落ちて自死することになった。ネルソン曰く、「彼女は死して尚、強欲になった。小さい頃から良い様に使ってきた娘を道連れにした」と。

 

【作品解説】

 アルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』(1960)で脚本を担当したことで一躍有名になったジョセフ・ステファノは、ABC制作のSFテレビドラマシリーズ『アウター・リミッツ』のヒットに大きく貢献したが、何らかの事情でABCと袂を分かち、その後CBSに声をかけられた。ステファノは『アウター・リミッツ』の対抗馬として、ホラーをテーマとしたテレビシリーズ『Haunted』を企画。そのパイロット版として作られたのが『シエラ・デ・コブレの幽霊』である。本来は54分の中編作品だったが、その後に追加撮影と編集を経て81分版が作られた。メガホンをとったのはステファノ本人であるが、本作が彼にとっての最初で最後の監督作品となった。

 結果的にテレビ番組『Haunted』は実現しなかった。81分版を作って劇場公開も計画されたが、これも実現せずに、アメリカで本作はいわゆる「お蔵入り」となってしまったのだ。しかし製作費回収の名目で国外でのフィルムの貸し出しは行われた。

 日本では1967年にNETテレビ(現:テレビ朝日)の『日曜洋画劇場』で放送されている。全国放送はそれ一度きりで、以降ローカル局で数度放映されたそうだ。いずれにせよ、世界的にみても、本作を目にする機会は極めて少なかったと言わざるを得ず、日本ではテレビ放映を観た視聴者たちの間で話題となり、長きに渡って視聴する術を失っていたこともあって作品はSF・ホラー映画愛好家達の口伝えで伝説と化していった。

 わが国では、昭和42年8月20日(日)の21:00から2時間枠で本作と『ミイラ男の呪い(ミイラ再生)』(1931)の二本立てで放映された。吹き替え声優は穂積隆信、二階堂有希子、田中信夫・他。

毎日新聞 1967年(昭和42年)8月20日ラテ覧より。

【記事全文】
"「ミイラ男の呪い」ほか
アメリカ怪奇映画特集 日曜洋画劇場(NETテレビ後9・00)"怪奇映画特集"としてアメリカ映画「シェラデコブレの幽霊」とミイラ男の呪(のろ)い」の2本を放送する。
「シェラデコブレの幽霊」は「アンネの日記」「大都会の女」のダイアン・ベーカーらが出演。続発する幽霊事件が、実は財産を狙う女のたくらみであることをあばく物語。「ミイラ男の呪い」は、映画「フランケンシュタイン」もののボリス・カーロフらが出演。紀元前数世紀、エジプト第十八王朝がさかえたころを物語の舞台に、王女を恋した高僧が神の怒りにふれ生きたままミイラにされてしまうというものー。"(原文ママ)

【ウィキペディア】
日本版:『シェラ・デ・コブレの幽霊』
【IMDB】
『The Ghost of Sierra de Cobre』